「蒼い月」双子篇


涙の 瞬間
砕け散る 氷の鎧
闇路に 沈む

SS 落花




「話をきこうじゃないか」

いきなり 放り込まれた状況に、自分は怒りを感じているのだ、そう 示したかったのだ。
戸惑いとか、わけのわからない怖さとか、焦りとか・・・
自分のなかにある 弱さが顔をみせるのがいやだった。
そんな自分の姿を こころのうちで おさえこみ、無いものとした。

どんなに姿がかわっていても 
この弟の前では強い兄でないとだめなのだ。

しかし 弐伊の低く語る声が
彼の虚勢の衣を一枚一枚 剥ぎ取っていく。

まるで砂に突き立てられた 棒のように 不安定な自分がいる。
そよとした風にさえ 吹き倒されてしまいそうだ。

「助けて・・」

小さな叫びが胸の奥に上がる。

それでも もういちど そんな折れそうな自分の姿に目を覆い、
叫びに耳をふさぐ。

語る弐伊の目をみすえ
弟に罵声を浴びせる。
「そんな哀れむような目で俺をみるな!」

分かっているのだ。
弟がどれほど 自分を慕い、待ち続けてきたのかということを。
その想いは 憐れみではなく、深く、あたたかい 愛なのだということを。

「だけど・・・だけど・・」

今 ほんとうにほしいのは・・

その名は口にしたくない。
口にすれば 本当に自分は折れてしまう。
けれども 思わずにはいられない。
自分をつつむように 抱く腕を。
支えてくれた、 あの大きな手を。

「四は まっているよ」

自分が避けようとしたその名を 告げられる。

バージルは 目を瞠る
それは 一気に溢れてきた感情をこぼすまいかとするようだった。

しかし 冷たく青く澄んだ泉の水は
さざなみをたて はたはたと 落ちた。

***

君よ、 氷の鎧を捨てよ。
忘れないで ―― 
希望は その手に 残されている。



画:canson



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