神様に花を

長い冬の時を終えると 大地は もう待ちきれなかったというように
一斉に芽吹き、そして花を咲かせる。

オーディーンとニィは 小さな村にさしかかろうとしていた。

村の入り口を示す石積みのほこらに
少女がひざまづいて 花を供えている。

道の傍らであり、ふたりは自然、その様子を眺め、
そして なにか楽しげに、歌うように 話しかけているその少女に微笑んだ。

オーディーンが声をかける。

「なにしてるのかね?」
「春のご報告をしてるの」

祠の中にはこどもの抱き人形ほどの大きさの粘土を焼いてこしらえた像があった。
三角帽をかぶり大きな目ととがったひげ。
身体の前で腕を輪に組んでいる。

「小人のラプンツェルかなぁ?」
「ううん、ちがうよ。これはね、オーディーン様」
「は?」

横で ニィが肩を震わせて 笑いをこらえているのを
オーディーンは口をとがらせて にらんで見せた。

像の真ん中あたりに 細い突起があり、少女がちろちろと なでている。

「あの、それは?」
「オーディーン様はね 豊穣のカミサマだって おじいちゃんが教えてくれたの。
あちこちを旅しては 種まきのお手伝いをして
たくさんの息子たちを作って 土地を繁栄させたって。
これはね、種まきのショーチョーだって。
ショーチョーって なに? おじさん 知ってる?」
「種まき・・・」
オーディーンは少女の質問にこたえられないまま
なにやら 呆然としているようだった。

ニィは声を殺して 涙を流して笑っている。
そして 少女にいった。
「うん、ぼくもきいたことがあるよ。
カミサマは「種まき」が得意なんだ」
「おにいちゃんも オーディーン様にお花をあげる?」

少女はオーディーンとニィに小さな花束をわたした。

ニィは花を添えながら
「きっと この像はオーディーン様にそっくりなんだとおもうよ」
「おにいちゃんもそう思う? お会いしたいなぁ・・・」
「君は神様になにかお願いしたの?」
「えーっとね、最初に 春を連れてきてくださったお礼をしたの。
それからね、おじいちゃんの病気がよくなりますようにって お願いした」
「あれ? おじいちゃん病気なの?」
「うん・・・おじいちゃんはね、村で一番の花環をつくることができて
いつも夏至祭りの塔のてっぺんに飾っていたんだけど
手がかたまっちゃってね、去年はこしらえられなかった・・・
もう一度つくりたいなぁ、って 言ってた。
わたしも おじいちゃんの 花環がみたいな・・・
だから このほこらのオーディーン様にお願いしたの」
「そう・・・神様はきっとお願いをきいてくださると
おもうよ」
ニィはそういってオーディーンを振り向いた
オーディーンはまだぶつぶつなにかつぶやいていた
「種まきしない、種まきしない・・・」

ニィは少女に頼んだ。
「おにいちゃんたち 今晩泊るところ探しているけど
君のおうちに寄せてもらったら だめかな」
「わ、お客さん? うれしい! おかあさんがきっとごちそうをつくってくれる!」
「いや そんなもてなしてくれなくてもいい。
納屋でいいから寝床があればいいんだ」
「わかった! 一緒に帰ろう!」

少女はぼんやりしているオーディーンの手をとった。
ようやくして オーディーンは気づいて とまどったように わらった。
「さ、オージー」
「オージー!?」
「そ、オージー。 おじょうちゃんの家に行きますよ」

***

少女の家族はあたたかく二人を迎えた。
素朴だが このうちではごちそうと思える肉の煮込みと
蜜酒がふるまわれた。

***

翌日 出かける前。

長椅子にこしかけて微笑んでいる老人のそばにオーディーンは並んだ。
「花環をつくる名人だと、お孫さんが」
「そうですか。でももう手が動きません。しかたがありませんな。
花環作りは次の世代がちゃんと継いでくれます。それでよいのです」
「しかし もういちどつくってみたいのでしょう。
きっと今年は素敵な花環をつくってさしあげなさい。
皆がしあわせになる」

そういって オーディーンは両手のひらで 老人の固く節のもりあがった手を包んだ。

「では、わたしたちは でかけるといたします。
一夜の宿を ありがとう」

***

ふたりは去った

その年の夏至祭りに 少女の願いが叶ったことは
いうまでもない





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