境界線 <Chapter One>
¶第一章 真実の在処
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*砂の味***



日も落ちた頃、
住民の共同集会所に 若い者達がやってきた。

「みんな、紹介しよう。
ソロツーリングで西側を目指しているダンテだ。
連合国の人だ」

連合国――??

一同の目がダンテに集まる。
その目は決して友好的なものではないと、ダンテは感じて 緊張した。

「そう、愚かな政府の犬と同じ・・・

しかし、俺は思う。
じきに 俺たちは自治を獲得し、さらに独立国家の形成を目指す。
それが成し遂げられた時
彼の国は 俺たちを認めざるを得ないし、また協力もしてもらわなければならない。
それに、俺は 人間同士として、個人個人は互いに尊重すべきだと思う。
そうじゃないか?
もしも 国同士が対立関係にあるからと言って個人まで攻撃していたら
それは いまの堕ちた政府の奴らとおなじだ。
俺たちは寛容な民族だ。
神から与えられた人類の調和を実現する 役を担っているのだ。

俺はダンテの目を信じる。
澄んで美しい。
みんなも 俺を信頼してくれるなら、ダンテを歓迎してやってくれ!」

ひとり 拍手でこたえると、それに呼応して部屋中に拍手が響いた。

ダンテは奇妙な心持ちでいた。
頼んで ここにいさせてもらったわけじゃない。
しかし 裁判にかけられた被告が 仮の免罪符を与えられたような気分だった。
テオは 得得として 演説を終了し ダンテの肩に手をまわし信頼と友情を示した。

「あ・・・ありがとう」
と、いうしかなかった。
「さ、ここにいる奴らはみんな同じくらいの年代ばかりだ。
どうだい、最近の流行の音楽の事とか、教えてくれよ。
俺たちにはそういう 情報がほとんどないんだよ。
君は自由の人だろ?なんの 悩みもなさそうだ。
遊んでいても だれも 咎めはしないだろ?
うらやましいなぁ、なぁ、みんな。

さぁ、食事にしよう。
君の国ほど ご馳走じゃぁ無いかもしれないが
女達はうまいものを作ってくれてるはずだ」

それからは ふつうの友人同士のように他愛も無い話が交わされた。

ダンテのまえに 野菜とぶつ切りの肉を煮込んだ皿がさしだされた。
眸の大きな女性で、ダンテにニッコリ微笑み、
「どうぞ・・」とはかなげな声をかけた。

「ソフィー、こっちへこい」
テオがその女性に命じた。
「ダンテ、こいつは 俺の婚約者のソフィーだ。よろしく頼む。
こいつには いろいろ苦労させたんだ。

俺があちらこちらと連絡を取る手伝いをしてくれるんだが、
ある晩 一緒に出かける予定だったのに
別の急用が入って うっかり ひとりで行かせてしまった」
「テオ・・・」
「連合国の駐屯地の近くを通るんだが・・・
俺が後を追ったときは
コイツはもう ぼろぼろにされていたよ・・・」

ダンテは 口に入れたものを 吐き出すところだった。
「それは、いま 言わなくても・・」
「いや、俺たちは苦しいことや、悲しいことをみんなで分かち合うんだ。
俺にも大きな責任がある。
俺はコイツがどんなに穢れたとしても許すことにした・・・
ソフィー、これからは 俺がお前をまもるよ。」

ソフィーはなんとか 口許に笑いをうかべていたが目が揺れていた。
ちらっと ダンテを見て 目があうと すっと伏せた。

別の若者がいった。
「ソフィー、お前はしあわせだな、こんな立派なリーダーが恋人だなんて」
「ほんとに テオは寛大だよ」
テオの絶賛がはじまった。

勇敢で 頭がよく 寛大な指導者としてテオは持ち上げられていた。
崇拝・・・といってもいいくらいだ。
それと同時に、「野蛮な連合国の人間ども」への憎しみを全員で煽っていった。
そのあいまあいまにテオは、「個人は別だ」としきりにダンテをかばう。
しかし、それはテオへの賛同と、
連合国や政府、そしてそれを支えている対立する民族への憎しみを確かめる効果をあげているだけだった。

食事は確かに 美味いようだった・・・
もう ダンテには 味がわからなくなっていた。

その場の状況をどう 捉えたらいいのか
混乱していた。





***


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