境界線 <Chapter One>
¶第一章 真実の在処
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*聖堂の二重クロス***



「ダンテの歓迎会」は日の変わるころ おわり
酔っ払った仲間達は 女達に悪態をつきながら
それでも支えられて うちに戻っていった。

ダンテはまだあまり酒が飲めないが、付き合いはじめでもあるので断るわけにもいかず 
すすめられるままに 杯を重ねた。

もう からだが 揺れるのを感じて、一刻も早く 横になりたい気分だった。

「ダンテ、一ヶ所付き合ってくれ」
テオが誘った。

テオに連れられていったのは 教会だった。

昼、カフェの親父が「珍妙なクロス」といっていたのは
教会の正面に掲げられている二重クロスのことだった。

しかし 半分酔っているダンテには、クロスが 剣に見えた。

さらにその中央に刻まれている紋章が、ダンテの目を捉えて離さない。

「誓いの紋章だそうだ。
俺たちの民族は主の命を忠実に遂行する
誇り高い、約束された民族なんだ。
いまは 踏みにじられているその誇りも、いずれ近い日に、取り戻す・・・!」

テオの言葉が遠くに聞える。

ダンテは直観した。
それは 紋章ではなく
喪われた文字、言葉であると・・・

熱を感じるのは魔の血か。
語りかける言葉は 恐怖ではなく真摯な祈り。
けれども それは 人々には伝わらない。 
かみ合わない歯車がきぃきぃと耳障りな音を立て
あらぬ方向へ回転を始める・・・
ダンテは眩暈を覚える。見えているものが ぐるりと回転する。
胸のアミュレットを握りしめ、かろうじてその幻影から逃れたのだった。





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