境界線 <Chapter One>
¶第一章 真実の在処
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*思いがけない再会***



「うぁっっ!」

荷台から 悲鳴があがり、ダンテは はっとして ふりむいた。
エミールが 右のこめかみあたりから血が流している。

「おいっ!」
「い・・石が・・」

エミールは今にも泣き出しそうな顔をしていたが、きっと顎をあげると、
石を投げてきた者のほうを睨みつけ怒鳴った。

「なんでぇ!いいおっさんが子供に 石投げるくらいしかできないのかよ!
へんっだ。こんなもん 痛くも痒くもねぇよ!
みてやがれ! いまに テオが おもいっきし テメェらにしかえしすんだからな!
そんときは 尻尾巻いて国に帰ればいいんだよ!」

相手は連合国の部隊の連中だった。
ダンテは 頭に血が上った

「おめえら 他人の国でなにしてんだよ!」
「あれ?なんだよ。おめ、・・・なにしてる、・・・旅行?
はっはーーーいい気なもんだね、
こっちは なにもかも ほっぽらかしにさせられて
こんな 明日をも知れない場所に放り出されてるというのに!」





同じ国の 同じような若者だ。
向こうは兵士として・・・
自分は 「旅行者」として・・・

相手は 今にも飛び掛ってきそうな犬の形相をしている。
言葉が継げなかった。
そのとき
「ま、まってくれ 彼は俺の知り合いだ。話をきいてみるから、もめないでくれ」
「おまえ・・・・・ダニエル!」
「ダンテ、こんな所で会うとは・・・
君、ごめんよ。」
ダニエルは 腰の小箱から簡単な消毒液を出し、
エミールのキズに吹きつけ、絆創膏を貼ってくれた。
「あ・・ありがとう・・・
兄ちゃん、ダンテを知ってるの?」
「ああ、わるいけど ちょっと話してもいい?どこか 安全な所へ」

エミールとダンテは 橋のこちら側にもいる人道主義者の団体「一つの鐘」にパンを届けるところだった。
「ダンテ、ボク、先に”一つの鐘”にいってるよ」
「大丈夫なのか」
「うん! ダンテがいないときには ひとりで行く時もあったんだから!
おいっ!坊主頭! 
ダンテは ボクの大切な友達でもあるんだからな!
なんかあったら ぶっとばしてやるからな!」

そういって 見得を切り、ひょこひょこ 彼の精一杯の急ぎ足で行った。

***





「ダニエル・・・なんで ここに?
それに 髪・・・」
ダニエルは 長く美しかった巻き毛を
無残なほど 刈り込まれていた。
「志願した。
サリアのお父さんが人間としての証を立てろと・・・
国に忠誠をみせよと・・・
サリアは 泣いて抗議したけれど
親に認められない結婚はやっぱり 不幸だろ?
俺、サリアが将来にわたって幸せに思えるように してやりたい・・・
おとうさんともおかあさんとも、家族として うまく やっていきたい。」
「だから 志願を?
で、なんで いきなり こんな前線へ?」
「単純に撃たれても しなない 魔族だからさ。
履歴書にも人種のところに書いたさ。魔族って・・・」
「えー?人種!?そんなもの書くところいまどきありなのかよ!?」
「俺は特別なんじゃない? 人間は魔族がこわいからね」

ダンテには 思い当たらないでもなかった・・・

「ダニエル、教えてくれ。 
あのエミールって子は 地雷で足をやられた。
お前たちが仕掛けたのか?」
「地雷? そんな非人道的な武器、いま 俺たちの国は使わないよ。
反政府グループ、つまり、あのこの仲間が仕掛けたものだ。
おまえ しらないのか・・・
あのグループは 山中でゲリラ活動を繰り返し、
また 町ではこまかな テロを繰り返してるんだぜ!
俺たちの仲間がどれほど 犠牲になっているか!
さっき あの子がいってた テオ。
ダンテ、テオを知ってるのか?」
「あ・・あぁ、世話になってる。」
「ヤツは反政府のリーダーとして軍でもマークしている。
手先を犠牲にしながらのうのうと指導者ヅラした汚いテロリストだよ!」
「しかし テオは 自治を掴みたいだけだ。
同じ国の中の民族対立を終わらせ、それぞれが 独立した国を興そうといっているだけだ」
「それだけなら 話し合いを積み重ねることで 解決もできるだろう。
やつは 対立する民族を粛清してるんだ。
許せない。
俺たちの国は 友好関係にある国が危険にさらされたとき共闘する約束がある。
俺たちの国は大国だ。
世界の指導者たる立場だ。
思想や経済、文化の自由が侵されることを防いでいるんだ」
「しかし・・・」

それらの全てを いま 橋の向こう側の人達は奪われているじゃないか。

「ダニエル、とにかく 命だけは大切にしろ。
俺たちは不死じゃないんだ。サリアのためにも生きろよ!」
「当然だ。お前も 気をつけろ。
どちらの側からも敵とみなされる可能性がある」

敵・・?

ダンテはそんなこと 考えたことも無かった。
ただ 不正義は 許せない。
しかし この国のどこに正義があるんだ・・・
どれが 本当の正義なんだ・・

いまは エミールといっしょにいることが
いちばん ほっとできる時だった。
「そうだ、エミール」
ダンテは 切り返すようにしてエミールを追った。

***

その夜の集会場。

罵声と嬌声がとびかっていたがテオが制した。
「ダンテ、エミールに聞いたが
犬ドモ・・・いや、連合軍のなかに 友達がいるって?」
「ああ、 高校のクラスメイトだ。親友だ」

「おいおい、やばいんじゃねぇの!」
オルグはざわついた。
テオはそれも制して続けた。

「責めてるんじゃない。いい機会をつくりたいんだ。
その彼を紹介してくれないか?
彼らだって 俺たちと同じくらいの者ばかりじゃないか。
ほんとうに 前線にやってきたがっていたやつがどれだけいるんだろう・・・
彼らの内部からこの不穏な空気を打開する声をあげてもらえたら
平和裏におさめられるんじゃないか。
俺たちは戦争を望まない正義の民なのだから!」
「そうだ! ダンテ、そいつとつなぎをつけろ!
君も俺たちの仲間だ!」

うおぉ、というような 歓声が湧き起こる。

「し・・・しかし、テオ。
君は・・・・テロ・・・いや、反政府グループのリーダーとしてマークされていると聞いた。
あえて 近づく必要は、ないんじゃないか」
「これは 外交だよ、ダンテ。
それに その場では君が 俺を守ってくれるんだろ?」
テオは鷹揚に笑った。

話し合う・・・それは いいことなのかもしれない・・・

ダンテは迷っていた。
そのとき すべてのざわめきを沈黙させる声が上がる。
「テオ! コイツの持ち物の中に不審な地図を見つけた!」
「な・・・なんでそれを!」
男が掲げる手にあったのは ポータルに赤丸を記した地図だった。
その男は ダンテの 荷物を漁ったのだ。
しかし それをとがめるよりも先に、その赤丸が問題にされた。

テオが目を剥いた。
赤丸は 彼らの支援者の居所に重なっていた。
「ダンテ・・・これは?」
説明のしようがなく 口ごもっていると。
「まぁ、いいだろう。君の潔白を信じよう。
そのためにも犬の駐留地に俺を案内しろ。そして俺を 確実に 守れ。
それでいいだろ、みんな!」

ダンテは 暗い渦に翻弄される木の葉をイメージしていた。

***
***


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