境界線 <Chapter One>
¶第一章 真実の在処
  (BGM ON)

*ソフィー***


駐屯地は緊張と好奇の目に溢れていた。

緊張は テロリストの首謀者とにらんでいる、憎き テオにむけて
好奇の目は 彼を同道してきた同郷の若者と
その場には不似合いな 女に向けられていた。

出かけるときにソフィーも一緒だと聞いておどろいた。
ダンテの様子を見て取り テオは言った。
「彼女もわれわれの同志だ。闘う仲間だ。
しかし こういう場合、女性はいいね。場を和らげる。
いくら野蛮な犬でもいきなりは 襲ってこまい」

駐屯地の入り口でダンテはIDをみせてダニエルへのつなぎをたのんだ。
その時立ち番をしていた兵士はちらっとテオを見ると今にもころびそうな勢いで中へ入っていった。

「ダンテ!」
やってきたダニエルは上官と一緒だった。
駐屯地にはいると遠巻きに 兵士たちが輪をつくっている。

ダンテの身分が確認されると、テオに向かい上官が質問した。
「本日の要件を聞こう」
「要件というほどのことはありません。
ただ、彼・・・ダンテの友人がこちらにいると聞き
僕ら 同じような世代の交流をしたいとおもっただけです」

テオの口調はいかにも若者らしく、
サークルへの誘いか何かのようだった。

「僕らの国はいま不安定ですが、新しい国として成立する日は近い。
その時には きっとあなたがたの国の援助もいただくことになるでしょう。
それに文化の交流もしたい。夢がひろがります。あなたたちの国は憧れですから」

相手を持ち上げているように見えて独立を断言していた。

士官が口を開いた。
「ときに、最近 起こっている爆破事件について少々君に聞きたいことがあるのだが
同行願えるかね」
「ぼくからいったい何を聞こうというのでしょう。
ちいさな爆破事件なら知っています。
僕らも闘っている。 当然の権利を得るためだ。
また ぼくたちの指導者たる神は、戒律に反するものを討てとおっしゃっている。
それを実行する。
熱情にかられた仲間達・・・
僕は彼らを尊敬する・・・
僕はこうして なんとかフィーリングで「トモダチ」になれないかとすりよる臆病者だ・・・

あ、それから、
サー、
彼女のことをかなり知っているおたくの隊員がいらっしゃるとおもうんですが・・・
まぁ、彼女は知り合いたくて関わったのではないのですが
蛮行もほどほどにされませんと、僕らの怒りと我慢にも限界がありますので。
かわいそうに 彼女は望まない異人の子を産む・・」

ソフィーは道具だった。

「僕らのインターネット上のサイトを興味深く閲覧する人は多い。
ほとんどが支持と共感のメッセージを送ってくれる。
ささやかに自治と独立をねがう、虐げられた 少数民族・・・
世論は確実に僕らの味方だ。

そこで 訴える。
侵略者達の許せない行為・・・
彼女のうけた屈辱的な仕打ちは世界中の怒りと糾弾の種になり
このちいさな駐屯地に限らず、各国間の問題にまで発展するだろう」

「君の目的はなんだ」
「・・・友好ですよ。

あぁ、今日は 日が悪いや。
ダニエル・・・だっけ?
また休暇のときにでも一緒に飲もうや。うちに来いよ。
ダンテもそれがいいだろ?
こいつさ、さびしがってんだよ、ぜったい。
僕らが難しい話ばかりするから疲れちゃうよな。
な、ダンテ。
じゃあ、突然、お邪魔しました。お目にかかれて よかったっす。
また 機会があれば、よろしく。
ソフィー、ダンテ、帰ろう」

テオは 刺すような怒りの目をもろともせず
まっすぐに駐屯地をでていった。

ソフィーは

そのとき立っているのがやっとだった。
哀れだった。

ふらついたところをダンテとダニエルが支えた。

「ダンテ・・・
やっぱり 俺は あいつが許せない」

ダニエルが囁いた。

「彼女を頼むよ」

ダンテは本当はもう この場に

荒れていようがなんだろうが
故国の匂いのするこの場所に

残りたい気分だった。

しかし いまは ソフィーを連れて帰らなければ。

ダンテは肩越しにダニエルを見た。
ダニエルは悲しそうな目をしていた。
つと あごを上げ
「気をつけろ」と
合図した。

***

帰ってからもしばらくソフィーの側にいて
食事の支度を手伝うことになった。

ソフィーの動きは緩慢だった。

「ダンテ・・笑うでしょ。
なんであんな人の恋人でいられるのか。
ひどいわよね
テオ・・・

・・・恥ずかしいわ。

何も知らないあなたにまで
わたしたち女には いちばんつらいことなのに」

「ごめんよ」

ソフィーは思わず笑った。
「あ・・どうして 謝るのよ」
「やっぱ・・・俺の国だから」
「わたしは 差し向けられたんだと思う・・
怒りのための道具として・・・」
「怒りのための・・・道具」

「ダンテ、 でも わたし
テオを尊敬して 愛してた」
「妊娠・・・してるのか」
「きっと テオに似て
勇敢で聡明な子が・・・」

ソフィーは静かに泣いた。
ダンテには彼女を抱いてやるしか出来なかった

その時戸口で声がした。

「すまないな、ダンテ、ソフィーのお守までしてもらった。
彼女と少し話があるから先にうちへ帰っててくれるか」

別に悪い事をしていたわけではないが
突然のテオの出現にうろたえた。

ダンテが去った後、テオはいつものやさしい調子でソフィーの頬を指先で撫でた。

「泣いたのか?
そうか、おれの前では涙を見せたことが無かったが」
「あ・・あなたには迷惑かけちゃダメだもの」
「お前はほんとうに愛おしいやつだ。
なにがあったとしても俺は お前を愛してるよ。
最期まで俺に尽くしてくれた ソフィー
俺は お前のことを忘れない。
例の件
明日・・
今回だけは 俺が「その時」を決めてやるから
安心していればいいよ。

今日の夜は ずっと一緒にすごそう」



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