境界線 <Chapter One>
¶第一章 真実の在処
  (BGM ON)

*一人目の生贄***


いつもは にぎやかな荷台が今日は静かだ。
ダンテは橋をわたったところの広場に自転車をとめた。

「エミール?
どうしたんだよ」

荷台のエミールはどこか 遠いところを見ているようだった。

「ダンテ・・・

ジュンシって
かっこいいものなの?
ジュンシしたら
英雄なの?」

「殉死?
エミール!」

エミールは目にいまにも溢れそうなほど涙をため、こらえていた。

「かっこよくなくてもいい。
英雄になれなくてもいい。
ぼくは ジュンシが嫌い。
パパも、ママも帰ってこない・・・
ダンテ・・・

ソフィーがジュンシしにいく。
ソフィーを・・・・
助けて!」

「ど・・どこで・・・」
ダンテは息が詰まりそうだった。

「外国人が集まる店
ペローのバー」
「・・・ここにいろよ!動くなよ!」

ダンテは走った。
見つける人ごとに ペローのバーを聞いた。

そして
バーにはいっていく ソフィーを見つけた。

「ソフィー!」

彼女ははっとして振り向いた。

ダンテは彼女の肩を掴んだ。
「ソフィー、どうしてここにいる?
いいか、ゆっくり 話そうよ。
なぁ、いっぺん 俺の国に来いよ。
エミール連れてきてやってよ。
俺、紹介したい人もいるし。
アニキいるんだ。かっこいいよ
それにさ」
「ダンテ、わたし、いかなきゃ」
「だめだ! 行かせない。死ぬことは美徳じゃない。
お願いだ目を覚まして。
ソフィー、おなかの子 みたいだろ?
いまどき 親父がいなきゃだめとかないから。
そうだ、俺の国で育てろ。みんなで親父になってやるよ。
な、 ・・・お願い」
「でも 裏切りはゆるされないもの」
「大丈夫、俺このまま ソフィーを連れて帰るから」

ソフィーのこころは揺れていた。
ソフィーはすでに母親だったのだ。
こどもをこの世に産み出してやりたかった。
「わたし、生きてもいいのかしら」
「あたりまえだ」
「ダンテ・・・助けて・・くれる?」
「歓迎歓迎!大歓迎だよ」

バーは 連合軍の兵士たちのたまり場らしい。
入り口で抱き合う男女をはやす口笛が鳴る。
人が集まってきた。

ダンテはソフィーが生きたいと思ってくれたことが嬉しかった。
彼女を抱く腕に力が入った。

次の瞬間

その腕には なにもなかった。

ダンテは立ちすくんでいた。
ソフィーの血を浴びて。

爆音を覚えている。
いまは ただ耳が鳴るばかりで何も聞えない。
バーは 崩壊している。

散乱する瓦礫
そして 肉片 
血の海というのは
これのことか・・・

遠くの出来事を見るようだった。

「ソフィー?」

何かを握っていた。

「髪留め」

ソフィーは跡形も無く散った。

「俺・・・なぜ ここに立っている」

狂ってしまいそうだ。

音がダンテにもどってくるにつれ、まわりが 見えてきた。

やがて 軍の救護のトラックがけたたましく 到着した。
血まみれのダンテをけが人と思った衛兵が駆け寄って手を差し伸べた。
「だいじょうぶか?」

その声は この場にそぐわないほど 優しいものだった。
しかし ダンテはその手を振り切り、走り去った。





***

一つ通りを隔てたビルの影でテオは驚愕していた。
「あいつは・・・あいつは
何者なんだ・・・」

彼の手には起爆装置の携帯電話が握られていた。

***
***


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