境界線 <Chapter One>
¶第一章 真実の在処
  (BGM ON) pmelo 飛空艇X:ロック調の音楽が流れます.音量にご注意ください

*バルカンの歓迎***

***

道は 海岸線を離れ、退屈な荒野を走っていた。

「さて、始まったな」

ダンテに声をかけてきたのは「闇」のダンテ。
併走する影が横にいる。



「もうでてきたのか。
運転のじゃまだ。声をかけるな」
「なんでぇ、目ぇつぶっててもまっすぐ走れそうだぜ。
そろそろ最初の挨拶がくるから気をつけな」
「?」
「表のお前がオジャンになっちまったら、俺も 元も子もねぇや。
ま、かんたんに潰されるタマじゃねぇだろう・・・けどなっ。
手始めに ゆっくり拝見させてもらうぜ、ハッハー!」
闇のダンテは掻き消えた。
「ぬかせ!まったく、食えねえ奴だぜ」
ダンテは苦笑した。
すでに「闇」が自分と対立するものではなく、気の置けない喧嘩仲間のように感じられたからだ。
しかし一瞬緩んだ口許もすぐに引き締まる。

前方の空間にゆがみが見える。
バイクは走り続けている。

ゆがみは陰影をつけて集まり、そしてひとつの形を為し始めた。

あたりは荒れた丘陵地帯で
丈の低い乾燥した草と、その合間に石灰石が 墓標のようにのぞいている。
樹はない・・・
それなのに
空間のひずみから
大量の木の葉が吹き付けてくる
突風といってもいいほどで
前からバイクもろとも
ダンテを煽り倒そうとしてくる

ここで バイクを停めるのは なんだか とても癪にさわる。
「停まるものか!」
意地だった。

くるぶしでバイクをホールドし両手をあけると
背中から二丁銃を取り出し構えるや否や
ひずみに向って連射した。



ひずみは急激に収縮し 風がおさまる。
そこではじめてダンテはエンジンを停めた。

ひずみのあったところに
錆色のローブの魔人が立っていた。

いや、正確に言えば
立つ・・・・のではなく、浮かんでいたのだ。

「ようこそ 我々のテリトリーへ 預言の子よ。
丁重な挨拶、痛み入りますな」
「その言葉、まんま てめぇに返すよ。
何者だ」
それには答えず
魔の男は言う

「ここから向こう、
われわれには 棲みやすい世界でしてな。
あなたにも 十分楽しんでいただけると 思うのだが・・・

そうそう、私達の従順な猫はどうしてますかな?」
「猫?」
「半獣のダニエル。なかなか 美味いヤツでしたがね」

(こいつらか・・・
こいつらが ダニエルを陵辱し、苦しめてきたのか・・)
「ふん、変態マスターから自由を取り戻して
お前達が二度と触れることの出来ない世界にいるよ。
お前もあの変態と同類か」
「あの 能無しと一緒にしないでいただきたい。
ただ・・美味いものには 目がない、というだけでしてね。
まぁ、よかろう。」

魔の男はそれまでの慇懃な口調を急に変えてきた。

「お前のその大きな口
やがてぐうの音もだせなくなる。
愚かな人間とより純粋な魔の本質を知るであろう」

不敵な笑いを残して
ひずみはふっと消えた。

「ああ、入れ替わり立ち替わり・・・賑やかなソロツーリングだぜ、全く。
次はなにが現れるのかねぇ??」

冗談でぼやいていると
ほんとうに むこうから近づいてくるものがある。

古いピックアップトラックだ。

「・・・人間だ。」

なんだか人間とすれ違うのが
久しぶりのような気がして 苦笑いする。

(おまえ、気をつけろ、あれはなぜ ひずみに代わってあらわれた・・?)
頭に直接ささやいたのは どうやら 「闇のダンテ」だった。



頭蓋骨の中にエコーがかかったような感じだ・・・

しかしそのことを考える前にピックアップから声がかかった。

「よぉ、どうした?故障か?」

地元の言葉でダンテにはわからず
手を広げ首をかしげてみせると たどたどしいが 英語がかえってきた。

「外国人?おもしろいかっこしてるねぇ、なにかトラブル?」

声をかけてきたのはダンテとさほどかわらない若い男で
大荷物のバイクに興味津々といったようすだ。

「どこからきたの?
連合国?どこいくの?」

故障ではないことや、
旅は今日始まったばかりで、
これからゆっくり町々を訪ねようとしていること
きまった訪問先はないというようなことを話した。

「俺、テオってんだ。
この先 北西の国境近くのニシュって町にすんでるんだけど、これもなにかの縁だろ?
とくに行き先が決まっていないなら、
どう? ちょっと回り道してみろよ。
いつでも歓迎するからさ。」

そういうと テオはダッシュボードからノートとペンをだすと
そこに住所を書きとめダンテに渡した。

「あ、名前は?」
「ダンテ」
「ダンテ・・・君、悪い人にはみえないし、
なんかさ、もっと話したい。
きっと 来いよな!」
「あ、ああ。
ぜひ よせてもらうよ。
テオ・・は いまからどうするんだよ」
「俺さ、ちょっと海側のでかい街に用があるんだ。
3日ほどでニシュに帰る」
「そうか、 じゃ 俺、その頃にニシュに入れるようにするよ」
「ああ、楽しみにしてる。
じゃあなっ」

ピックアップはガタガタいわせながら
ダンテが今来た道を去っていった。

「ニシュ・・・・」
タンクバッグのマップで確認する。

「・・・・」
ニシュの近くの山に魔のポータルの存在を示す
赤い丸がしるしてあった。

***


 前のページ  次のページ  第一章真実の在処トップ  小説館トップ   総合トップ