境界線 <Chapter One>
¶第一章 真実の在処
  (BGM ON)

*瞳に戻った涙***

***

橋から山側へ進むほどに町はささやかに 息を残していた。

足が重い。
こころは 砕けそうだ。

覚醒した魔の力、 
その瞬間 喜びさえ感じた自分が忌々しかった。

がれきの陰に時おり感じる人の気配は
どれもこれも息をひそめ、自分をやり過ごそうとしている。
そう感じた。
その場のすべて、人も魔も、生者も亡者も、そして空気さえも
自分を拒絶していると感じた。

「護りたかった・・・護りたかったんだ」
(詭弁だ。おまえは 破壊者・・)
繰り返される内なる言葉が 心臓を締め上げる。

さびしかった。
そのとき ちくりと 太ももを刺すものがあった。
それは ポケットの中のエミールとダニエルの骨の欠片だった。

「お前ら・・・やさしいんだな」

***

傲慢と憤怒に満ちていた集会所は家を失った人々を迎え入れていた。
いまそこにあるのは慰めといたわりだった。
その風景に、ダンテはわずかに救いを見たように思えた。
建物のかげに停めていたバイクは 唯一ダンテのためのスペースだった。
彼のおおかたの荷物は何者かに暴かれていたが、そんなことはもうどうでもよいことだった。

IDと 気持ちの支えになってくれるお守りを懐に入れ
弐伊からもらった寝袋だけを バイクにくくりつけた。

「もう いいさ」
マップも 捨てた。
ポータルを記す 赤色が、やたら 目に痛い。。

その夜は 彼らを葬った丘の木陰ですごすことにした。
空は冴えざえとして なにごともなかったように 月は冷たく光る。
すべてのものは わずかにブルーを帯びた影絵のように浮かんでいる。
このまま この影のように 自分も溶けてしまうような気がした。
寝袋にくるまり 自分のからだを 抱きしめる。

出かける間際になって弐伊がくれた寝袋。
(「最新型の寝袋だ。保温性、通気性、収納性バツグンの三拍子!なにより二足歩行で動き回れるんだぜ。」)
(「着る寝袋か!」)
(「そうだ、これで熊が出ても狼がでても寝袋ごと逃げることができる」)
(「俺たち悪魔退治できるのに熊や狼から逃げるって?」)
(「おまえ、罪のないカワイイ動物たちを傷つけちゃあ、いけないよ」)

他愛もない会話を 思い出す。

(「これにくるまって さびしいひとり寝の夜も俺と一緒だと思え」)
(「へっへー なに言ってんだか!俺そんなに甘えん坊じゃないからねっ」)
言い返した自分のあたまを くしゃくしゃ撫でてくれた、大きな手。

「弐伊・・・・」
そのとき ぽろっと 涙がこぼれた
「・・涙?
もう 泣けないのかと 思った」

そう思ったとたん
後から後から 涙は溢れてくる。
ダンテは 肩を震わせて泣いた。




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