境界線 <Chapter One>
¶第一章 真実の在処
  (BGM ON)

*いつでも どこにいても***

***

南天に煌々として月があった。
海と空は同じ夜の漆黒の中にあったが、 波は月を受け
点々と白を浮かべ、揺らいでいた。
その月を切り裂いて北へ飛ぶ黒い翼があった。

“アイツ”が泣いてる…

まるで年端も行かない子供のように・・・

… ひとりぼっちだ

俺が 俺が 行かなきゃ
あんなに 泣いてる 可哀相に…

良いんだ
お前 悪くない
泣いても 良い…

けど、ひとりぼっちで泣かないでくれ
お前の濡れる頬に いまはこの手が届かない
お前の哀しみが俺のハートを引き裂く

こんな 痛みは 耐えられない

躊躇はしない
そんな必要はない
いま月夜を駆けよう
こんな 冷たい痛みは 沢山だ

もうひとりで泣かないで
泣くなら
頼む… 俺の 居るとこでだけ泣け
(註*)





***



ダンテは夢を見ていた。

翼がぬくもりを運んでくる。

夢・・・なんだろうけど
夢じゃなきゃいい・・・

弐伊・・・弐伊・・・
俺の声、聞える?
いろんなことがあったんだ

そこにいるの?
暖かい・・

夢・・・なんだろうけど
夢じゃなきゃいい・・・

弐伊・・・弐伊・・・

***





弐伊は そこにいながら
存在をダンテの 深い意識の中にのみにとどめ
眠り続ける彼を その腕に包んだ。

規則的な息も額にかかる髪の一本も愛おしい。
時おり口の端に笑みが浮かぶ。
「夢でも見てんのか? その夢に俺は登場させてもらえてるのか?」
弐伊はちいさく笑った。

おまえが呼べば、いつでも どこにいても 必ず俺は行くと、そう 約束した。
けれども こいつは そんな泣き言を言ってこないことを知っている。

「俺が・・そばにいたいんだ。 だからしばらく、このまま・・
月よ、今夜はすこしそこにゆっくりしていかないか?」

そして 東の空が白みはじめるころ
弐伊はふたたび 依頼者の待つ 南米沖の島へ飛び去ったのだった。



***
*註:アイツ〜泣け の散文はナターシャの原文。絵に添えてあったものです

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