境界線 <Chapter One>
¶第一章 真実の在処
  (BGM ON)

*選択は自らの手に***

***

冷えた空気に頬をひと撫でされ、ダンテは目をさました。
ふと 親しむコロンの香りがしたようで、彼は跳ね起きた。

「弐伊!」

目の端に人影を見た。

「な・なんだ・・・ おまえか・・・」
闇のダンテがそこにいた。
「おはよう、甘えん坊君」
闇は笑っていたが、けっして 皮肉な笑いではなかった。
「う、うるさい!もう 会わないんじゃなかったのか」
やたら感傷的なところを見られたようで、ダンテはきまりの悪さを悪態で隠した。
「そのつもりだったさ。
しかし、 俺はメッセージを預かった。
俺の姿をもって 伝えよと。
だから・・・これっきりだ、少しだけ・・付き合え」

ふたつの顔をもって光と闇の境界に立つ定め、
闇を知ることは つらく苦しくもあるだろうが、それゆえに光を知る喜びもまた大きい。
魔は悪ではない。光り輝くゆえに深い闇を持つ。
その危ういほどの均衡ゆえに魔は人ばかりでなく、神をも魅了する。
魅了され惑うがゆえに魔を悪となす。

ふたつの心をもって光と闇の境界を護る定め、
それは重荷ではなく 誇り。
相手を知り、己を知り、互いに敬愛することを知って
心ひとつにしより大きな力とするためにふたつとなった。

ふたつの顔、ふたつの心は異なるものが絆を結ぶ証。
異なるがゆえに 絆は結ばれる。

その均衡が崩れ、誇りを見失い、絆が断ち切られる日がやがてくる。
一対にあった翼の一方が 闇色に染まる。

しかし 道が残されている。
光を 与えよ・・・・・

・・・とな。

俺の言葉じゃねぇ。
もっと お前が 親しむべき存在からだ。
残念ながら お前に 「彼女」の記憶は薄いのだろうが・・・

さ、 俺の役目は終わった。
消えるよ」

「ま・・まてよ、おい! 
前にも言っただろう。
俺とお前は両立する。
お前は たぶん俺の迷いそのもの。
それが なくなるのには、すっげぇ ジィさんにならなきゃな!
それに俺、そういう謎かけちょっと弱くってさ、一緒に解いてくんなきゃ・・」
「お前は お前の魔の部分の姿を知っただろう。
お前は意識していないだろうが、ずいぶん前に 一度魔人化したことがある。
これからは コントロールしろ。
そして 必要な時に その力を発揮しろ。

・・・俺の言うべきことはそれだけだ。
俺はこれから お前の胸のアミュレットに棲むのだろう。
「彼女」の思し召しだ・・・
じゃぁな!」
「待って! 彼女って だれ・・・
・・・誰なんだ・・・よ」

***

「闇」は消えた。
急に 寂しさに包まれる。

半分脱いでいた寝袋をまた肩まで引き上げ
膝を抱え、顔を埋めた。

「・・・弐伊?・・

気のせいじゃない。
弐伊の匂いがする・・・」

しばらくそのままでいたが
やがて まっすぐな目をあげ 彼方の山の稜線を見る。

「さて、次の扉を開きにいこう。
開かれるのを待ってちゃダメだな。

ふたつの顔・・・
バージル、お前にも試練がくるのか・・・
たとえ 闘うことになっても
俺は お前が堕とされるのを 
止めよう」

あたりは 音のない透明な世界で
凍った朝霜のせいで 光に溢れていた。
静けさは 一発のエンジン音に
破られた。





***

昨夜の3時間戦争について
双方の政府が発表した。
それによると
混乱に乗じて
第三の無差別テロ組織による
小規模な核攻撃があり
被害を受けた ニシュの復興のため
話し合いにより
最善の道を探るという合意に至ったという。

第三のテロ組織
むろん、それは 架空の存在なのだが・・・

そこに 人間が知恵をもって 
新たな道を探りはじめたのは 
まちがいなかった。


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