境界線 <Chapter One>
¶第一章 真実の在処
  (BGM ON) Hagall 忘却の彼方

*アミュレットと二色のコマ***

***

道沿いにはりつくような集落に
カフェを見つけた。
カウンターの上にパンが並べられており、
晩の買出しも兼ねて バイクを寄せた。

メニューは見てもわからないが
とりあえず 発音できるものをひとつ。
それと 知っているものをひとつ 見つけたので
それをたのむと
ふっと一息入った。

唯一「知っているもの」、炭酸水のペリエが出され
まずは 一気にあおる。
喉から腹に染みてきた。

首をしめていたボタンをはずし
胸まで大きく開く。
そこから ぽろっと
こぼれ出てきた アミュレット。

テュルキスタのマダムハピが
いま このときにこそと
ダンテとバージルにくれたのだ。

「ご両親から預かっていたものです」
そう言った。

「異なる道を歩み始めた。
でも 絆は断たれることはない。
ふたりは 欠かせない一対としてあることのしるしとして
お渡しします。」

バージルにはなんとなく ハピの体を借りた母の魂が手渡してくれているのだと感じられた。
しかし ダンテにはわからない。
ただ兄と「お揃い」というのがこどものようにうれしかった。

***

ダンテは タンクバッグから
小袋をとりだした。

出かける間際になって

「これ、もってってくれ」
そういって バージルがぐいっと押し込んだものだ。
「なに?」
「おまもりだっ」
なんだか 怒ったような口調。

小袋はどうやらバージルの手作りで、縫い目ががたがただった。
中から出てきたのは
古い二色のコマ。

「・・・・
まだ もっていたのか」

憶えている。
幼いころ 自分でこしらえた不格好なコマ。
手近にあった青色と赤色に塗り分けた。
これを売れば 兄を助けられると思った。
本当に売れると思った自分の幼さに
恥ずかしいような 切ないような なんともいえない心持がして、鼻がムズムズする。
すでに色褪せてほとんど紫と灰赤になっているが、
記憶はいまだ鮮やかであった。

しかし
バージルには思い出したくもない
屈辱と哀しみの日々のはずだ。
頼る人を失った幼い兄弟が生き抜くため、
弟を護るため 自らを売った。
それをまざまざとよみがえらせるコマを
大切にしてくれていたのだ。
「お守りだ」と言ったその言葉で、
兄がこんなものでも心のよりどころにしてくれたのがわかる。
こんどは 兄の想いが込められたこのコマを 自分がひとつの標(しるし)としてもっていよう。
彼はしずかな喜びにふんわりつつまれたように感じていた。



「こんなに ちっさかったんだな・・」

片手で転がし、握り締め
もう一度袋に戻すと
こんどは胸の内ポケットにしまった。

***


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