境界線 <Chapter One>
¶第一章 真実の在処
  (BGM ON) Hagall

*剣の秘密〜il segreto della spada B剣の詩***

***




かの者 闇にありて 闘神の名を馳す
四魔三障 終わりなき 魔縁

かの者 闇にありて 光を求む
ゆえに 叩く 光の扉を

処女は聴く 呼び声を
そして 扉は開かれた

かの者は みた そこに白き処女の姿を
かつて見ぬ 光に棲むもの

処女は みた そこに黒き異形の者を
かつて見ぬ 闇に棲むもの

かの者 処女に導かれ 光の世界に在ることを希む
ゆえに 姿を ヒトと成す

しかし 処女は願う
ありのままを 許しあえる世界たらんことを

かの者 ヒトを愛し ヒトを愉しむ
そこに 知るは 受け入れられる悦び

かの者 唱を知り 唱を愛す
そこで 舞うは よろこびの 舞い

かの者 酒を知り 酒を愛す
そこに 酌み交わされる刹那の戯れ

かの者 酔うほどに 美しく舞う
やがて 6枚羽を 顕し 月夜に影成す

かの者 月夜に浮かぶは 空の王のごとし
その姿 処女らを 熱く 濡らす




やがて かの者は 知る
ヒトのココロに 影うまれることを

かの者は みた 祈り捧げる処女の姿を
戯れのなかに 忘れていた 真の姿

ヒトは自ら闇を呼び
好んで喰われ シカバネを晒す

かの者は 叫ぶ 闇よ 去れと
いつか ヒトが ヒトに戻ると信じて

かの者は 知る ヒトに仇なすはヒト
闇と 光は 形ふたつ 在処ひとつ

かの者は 振るう その手の太刀
一振りごとに 闇を裂き  光もたらす

かの者 光もたらし 光うしなう
その目に 再び 光 映すことなし

かの者 闇と光の狭間に立ち
自ら 封印の標(しるし)と成る

処女は 誓う かの者の 光とならんことを
ともに 標の ひとつとなる




かの者 処女の救いを得
その 魂を 三振りの 剣にかえる

怒りを力に
反逆を力に
そして 最後に 希望を力にする 剣に

ひとつの 剣に標あり
非道に打ち克ち 
再生を願う 赤眼の髑髏

処女は かの者の眼に棲んで 一粒の涙を流す
涙は人の唇を濡らし
一篇の詩に変え 語らるる

強き 光 深き 闇
ただ しずかに 時が満ちるのを 待つ





***

「こんな 感じかね、意味は」

アマヤが 隣に座り 教えてくれた。

「詩は ひとつにとどまらないんだよ。
それはもう ぶ厚い本が一冊
できあがってしまいそうなほどさね。

顕れた 闇の魔人と迎えた処女は
人と人との戦争と それを後押しした魔を治め
二つの世界の狭間に 姿を消した。
それは封印。
目に見えるものではなく、
また文字に残されてもいない。
処女につながる民族の ひとりの選ばれた女が
物語りを詩にして 歌いついできた。」

「はじめに その詩をくちづさんだのは、
処女を敬い、慕った 彼女の妹だったという。
姉を愛し、姉が愛した 魔人をもまた
兄として慕った。
ふたりが 彼方に消えた後
泣きはらしたその目もまた
光を失ったが、
かわりに 彼方からの声を聞いた。
泣き声とも、唸りとも、つかぬ。
ふたりがひとつになれた 喜びの声だったかもしれぬ。

あたしたちは もともとシャーマンの一族でね、 
各地の祭事に呼ばれ、司っていた。
詩は世代をわたって 選ばれたひとりの巫女によって詠われる
やがて 民族は 詩人と護(まもり)人に分かれる。
詩人は 旅を続け
護人は 世界にあった 光の扉の近くにいて
それを見守り続けたんだよ」

「光の扉・・・ポータルか!

東のテュルキスタにハピという人がいるけど、
その人は護人なんだね」
「そう、そして 彼女の娘が アンタのお母さんだよ」




一気にあきらかになってくる。
ダンテは ごくりと ツバを飲み込んだ。

「人も魔族も それぞれに 血を受け継いできた。
魔族は 良き魔と 悪しき魔にわかれたそうだが・・」
「ああ、聞いたことがある」

「詩のさいごに『時が満ちるのを待つ』とあったね・・・
2000年の時を越え
ふたりは それぞれ別のものに 生まれ変わり、再会する。
再会すべきとき、再会すべき場所で・・
そして 使命を果たす。
宿命の子をこの世に送り出すという
使命・・・」

「・・・」

「詩は あたし達の間では2000年前の世界を救った神様のおとぎ話として 
子守唄のように聞かされる。
だから こどもたちは アンタのその剣を見て
神様を背負ってる、と言ったのよ」
「赤眼の髑髏の剣が これ・・・ってことか?」
「アンタはその剣の名を 教えてもたったのかい?」
「剣の  名前?
いや、知らない」
「非道や 圧力といった
負に立ち向かう剣・・・、おそらく
反逆の剣
リベリオン」
「リベリオン・・」

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