悪魔に恋した神様

§2
弐伊20歳 遭遇





弐伊はネロを失ってから ニンゲンに混じって遊び人の風体で暮らしていた。
仕事の指示は村の伝令から受けていたが、
それ以外にも何かないか、ささいなもめごとも自分が片付けると言っては
がむしゃらに闘いの日を求めていた。
そのころ ヨーロッパでは 人間どうしが探りあい、いずれ貶めんと策略は巡らされ
無残な戦いが繰り返されていた。
その影にはつねに悪魔が暗躍し 人間の欲望を餌にしては肥え、力を増していた。
光と影のバランスをとるべく 魔族が挑んでも
人間は自ら悪魔を肥やしていくのだ。
弐伊は無為な戦いに身を投じることで
自分を侮蔑し嘲っていた。

しかし その日・・・
海峡をはさんだふたつの国の争いに加担していた氷原の悪魔は
海を遙か下に望む断崖に 弐伊を追い込んだ。

「どしたのぉ、やばいじゃない」
突然乱入してきた長髪の大男が 槍を構えて笑った。
「ど・・・どこから・・
なんだよ おっさん、邪魔立ては無用だぜ」
「おや 冷たい。いまは助っ人が要るんじゃないの?アグレアス」
「アグレアス? 人違いだ・・・・
そのオーラ・・・あ・・あんた 神か」
「お、よくわかったね」
「何の用だよ。アグレアスって奴を探してるんだったら 俺じゃねえぜ」
「ああ、そうか。 弐伊ってんだな、おまえ」
「・・・」
「まあ 話は後だ、とっととこの場をおさめてしまいましょうぜ、弐伊君」

オーディーンはとんでもないつわものだった。
弐伊は舌打ちしながらも 神のサポートを受けながら その場を切り抜けていったのだった。

***

なにごともなかったかのように、長髪の大男が両手を拡げ、
満面の笑みを浮かべて 近づいてくる。
「?・・何か用・・ぶゎっ」



その瞬間弐伊は何が起こっているのかさっぱりわからなかった。
上背のある自分よりもさらに大きな男が自分を抱きかかえ
しかも キスしている!
「や・・やぁめろっ!」
渾身の力をもって つきとばした。
「て・・てめ! なにしやがる!」
「照れるなよ」
「て・・照れてんじゃねぇ、怒ってるんだよ!」
「お近づきのごあいさつだよ。ふつぅ〜。
さて、弐伊クン。 とりあえず事は終了したことだし
どう、うちにこない? 一杯やらんかね(そのほか色々)。
わし・・・・いやボク オーディっていうんだけどさ」
「お・・・オーディ・・・おっさん、その無理のあるものの言い方
やめたほうがいいぜ。
助けてくれた礼はいうよ。 けど俺ぁ もう行く。きれいなねえちゃんでも抱いて寝るさ。じゃな」
「あ、ちょっと・・・
――
そうそう、コレくらいの絶壁、飛び降りられるようにしておいたほうがいいよぉ・・」
「ほっとけ!」

弐伊は振り返りもせずに大股で去っていった。
あとは オーディーンがひとり 風に吹かれるままでいた。
「あら。
う〜ん、ちょっとノリが軽すぎたかね・・まぁ、いいか。
ちゃんとわしの印象はぐっときているはずだもんね。
にしても・・・いい男だねぇ。
わし、あきらめないよ。
ま、今日のところは ごあいさつってことだ。ふん」

オーディーンは槍を一振り、次元を切り裂いて ひきさがった。

***






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