悪魔に恋した神様

§7 ただ君のための―― (♪音楽を流します)




歌うようなしじみ売りの声で オーディーンは目を覚ました。

酒瓶を二本あけたところで
ふたりとも部屋にひっくり返った。
手近な座布団を折って枕にし、 そのまま眠ったようだ。
部屋はまだうす紫色の空間の中にあった。

弐伊はまだ眠っている。
オーディーンは肘枕でその寝顔を見おろしていた。





「ゲームだったんだよ。最初は。クリア条件は君を抱くことね。
それがね、なんだか 目的がかわってきちゃった。
わしは 大神のひとり。 太陽なのよ。みんなのね。全ての生きとし生けるものたちのね。





けどさ、ただひとりのこころに射す太陽に
なってみたいじゃない。

若いのに・・・」





弐伊の眉間に深く刻まれた縦皺を指でなぞる。

「君の太陽は わしじゃないんだな・・・」





そして神はゆっくりとその眉間にくちづけた。
数秒あって、 オーディーンは
ちょろっと 舌をだしてぺろっと弐伊を舐めた。

「ははっ、舐めた。舐めちゃった・・・・

じゃあね、アグレアス。
これが最後じゃあないよ。たまに遊びに来るくらいは 許してよ」

弐伊はぶつぶつ語るオーディーンの言葉を聞いていた。
いきなり口付けを感じたときは 一瞬どうしたものかと考えたが、
言葉の先を聞きたくてそのまま堪(こら)えていた。

ざっと 立ち上がる神の気配に薄く目を開いた。
外に向う障子を開け
そろそろ昇り始めた朝日に浮かぶ姿。
オーディーンは正装していた。
長い金髪が美しかった。





オーディーンは弐伊のほうを振り向かず言った。

「いつか敵として 対峙する時がくるだろう。
わしは 君の最強の敵だよ。
互いの正義を貫くための戦いだ。
望むと望まざるに係わらず
時の流れがそう 導く。
神だ魔だとはいっても
その流れの中の駒にすぎぬ、
しょせんは小さなものよ」





オーディーンは光に吸い込まれるようにして 消えた。

弐伊は 腕で顔を覆った。





「俺にもう太陽は昇らないんですよ。
風だ、あなたは。
俺の周りに漂う霧を払いのける。
だけど いっときなんだ、それは。あなたがいるその一時だけ。
戦う?あなたと?
じゃぁ、俺はあなたの剣の前に俺の胸を開く。
それで いいだろ」

丁度その時 朝日は生垣を越え
スーッと部屋の奥まで射し込んできた。
それを肌に感じて 弐伊は半身を起こした。

「励まし・・・ですか? 神・・」

弐伊は目を細め、
白い光に 静かに微笑んだ。





***











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