悪魔に恋した神様

§8 神様だって 夢を見る@




8年後。ヴァルハラ。

「ずっと まってたよ・・・君を」
「そ・・・そんなところで 喋んないで・・・あ・・」
「忘れたことなんてなかった・・・」
「神・・」
「オーディって呼んで」
「オーディ・・気付いたんだ、会えなかったこの年月に・・
あなたは 俺の心の中で ずっと一緒にいた」
「ああ、うれしいよ。ようやく こうしてワシの腕の中にきてくれた・・
これまでの全ての想いを くちづけに替えよう・・」

・・まずは 唇から首へ そして胸そして そのつややかな筋肉をたどり
腰へ そして・・

「あ、そこはだめ・・」
「だめじゃないでしょ? ほら、どんどん 自分から開いていってるよ」
「恥ずかしいから」
「もう こんなになってるのに? さぁ 力を抜いて・・・・
ああ・・ いいよ、すごく」
「んぁぁぁ」
「ああ、ニイクン」
「あなた」
「素敵だ・・・夢のようだ」
「あなた」
「はい」
「あーなーた!」
「はい? フレッガ???」

「なにやら 思案なさっているところ、おじゃまだったかしら」
「ううん。思案じゃないの。夢見てただけ」
「そう、どのような夢でしょう、 殿方はわかりやすくてようございますわ」
フレッガの言葉に オーディーンは股を押さえて 笑ってごまかそうとした。
しかし ろくなことを考えてなかったのはまるわかりで、 オーディーンはむくれた顔で開き直った。
「いーじゃないかっ!今日も元気!すっごいだろ!」
そしてすぐに 情けない声で 妻に懇願する。
「フレッガァ・・・・ちょっと漫遊してきたらダメ?」
この数年、フランスとイギリスが戦争を続けており、ケルトの神と その荒廃した大地の収拾に忙しかった。
「漫遊?・・・ふぅん、そうですわね、あなたもしばらく神としていそがしくていらっしゃったから、
そろそろ 息抜きなさってもよろしくてよ」
「おお、やっぱりワシの妻!」
「その前に、スロベニアから使者が参っております」
「なにかな。わし 今忙しいんだけど」
「妄想に? まだごらんになるおつもり?」
「うん。 いま いいところだった」
「あとで とっくりと ごらんあそばせ!」

***




使者の用は、なんのことはない、フレッガの力を貸して欲しいので 口ぞえをしてくれないか、というものだった。
対立する隣国と良好な関係を築くために
次期王位継承者である 自国の領主の子息と 隣国の息女との婚姻を成立させたい。
しかし 肝心な本人の恋心が一向に芽吹く様子もなく、
かといって強引な手段をとっても 先々の不幸は目に見えている。
ここはひとつ 愛の女神であるフレッガに登場して欲しいというのだった。
(なぁんだ。そしたらワシじゃなくて 直接たのめばいいのに・・)
オーディーンは心のなかでは 口を尖らせていたが、けっして 表には出さない。
ただ 早くことを妻に回して、自分はさっさと 弐伊のいる国へ飛んでしまいたかった。

そこで オーディーンは使者の片耳に揺れる赤い石に目を留めた。
「・・君。 君のその耳飾、ちょっと見せてくれない?」
「おお、さすがはお目が高い。 
これはヤブロフの硝子職人が偶然につくりだしたもので 「竜の息」といいます」
「竜の息・・・」





「赤く染めた硝子に毒薬が混ざってしまった。
ところが その失敗は 内側に青い炎をを閉じ込めた
うつくしい結果を生んだのでございます。
製法はこれから確立されようとしております。
なにせ 我が国の硝子職人は・・」
オーディーンはすでに話を聞くのも上の空だ。
硝子玉を陽にかざしたり、ひっくり返したり、匂いを嗅いだり、舐めてみたり・・
その中に見え隠れする青い炎に興味津々だ。
「・・・・ふぅむ・・・毒を眠らせた美しい硝子・・か。
毒というのは 魅惑的なものだ・・・。
君、これくれない?フレッガに話はつけておくよ」
「え? ああ、どうぞどうぞ」
「じゃあ、フレッガを呼んでくるから。ワシはこれで失礼するよ。領主殿によろしく伝えてくれ」
「ありがとうございます」

***

頼まれごとを請け負うのに 見返りの品を要求したことはなかった。
オーディーンにとっては自分の働きによる良い結果こそが
見返りであり、報酬だった。
それが 彼が慕われる 理由でもあった。

しかし 今回は「見返り」を言い訳に利用することにした。
他人の持ち物を 欲しいとねだることに理由が要るほど
オーディーンには律儀なところがあった。
手に入れた「竜の息」を銀の装飾からはずし 小袋に納めた。

「スパーダ・・・
かつての同士よ、貴様の血族に会おう。
懐かしいのぉ、そなたの願いは ちゃんと受け継がれたのだな。
この赤い石につなぎをとってもらおう。
"あのふたり"の仲に割って入るほど 無粋ではないぞ。
さりげな〜く、まるで 通りすがりのように・・・

はぁ・・・・ニイクン、わし、ちょっと悲しい。

君の心は もうあの子のものなのかなぁ・・・
わし、失恋しちゃったのかなぁ・・・
初恋ってのは知ってるけど、初失恋ってのもあるんだなぁ」

***









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