「蒼い月」ダンテ篇

§16 異国より


***
「で? 弐伊!」

半纏一枚羽織ってダンテが弐伊に馬乗りになった。

「まだ 俺の質問に答えてないよ。
あの 女とはどうしたの?
白状しろ、すけべ野郎!
・・・寝たの?」
「寝ねぇよ!
やってたら おまえと  こんなには できてません。」

そういわれて、ダンテは嬉しそうに弐伊の胸にとびこんだ。



「まるで 子犬だな」

「でも 弐伊、 あの女は ニンゲンだよね」
「うむ、お前がであった 蜘蛛女とは ちがうようだね。」
「俺のことは かすかに 記憶があるようだけど・・・」
「もともと欲が深かったのだろう。そこを無道につけこまれ、いいように使われていたということだな」
「蜘蛛女達は あの代官の監視役なのかな」
「おそらく・・・
女将も代官も魔の道具。
奴らがまき散らすアヘンを媒介にして ニンゲンを狂わせて行くんだ。
アヘンだけじゃない。
土地や金、地位や名誉への欲をあおり、嫉妬させ
奪い、奪われる世界を楽しむやつがいるんだ。
悪魔が囁く物語はニンゲンにとても耳触りのいいものだ。
心地のいい夢だ。
愛は失われてしまうがな・・・。

女将は俺に 常に同行する仕事の片腕にならないかといってきた。
体のいい おんなのおもちゃだな。安く見られたもんだ」
「弐伊がそう 見られるようにしてたんじゃない」
「ははっ そういうことだ。
そんな 色事師の馬鹿ならと 女将も 流し目くれながら ぺらぺら 喋る。

また 川下の町の港に アヘンが届く。
西の異国からだ・・・」
「西の異国・・・・ 四が行ってた・・」
「あいつの行っていたところかどうかはわからないが、
おおもとは 異国につながっていそうだ。
今日は 弟が腹すかせて待ってるからとかなんとか
色気もへったくれもない 話で 腰をおってやった。
しかし いつまでもそう ごまかしてはいられないだろう。
そこは なんとかするさ。
船が入る日はお前も連れて来いといっていた。」
「もちろん 行くさ。弐伊がダメって言ってもね。
異国の悪魔の面 しっかり拝ませていただく」
「へたしたら 売り飛ばされちまうぞ」
「大丈夫・・・
俺・・強くなれる・・・
だって、ひとりじゃないって思えるから」

**

「四をね・・・
にいちゃんは きっと 好きだったんだ。
四がいきなり異国へ呼ばれたとき、どうしてあんなににいちゃんが泣いたのか
わかったような 気がする。

兄ちゃんも こうして愛してもらっただろうか・・・

弐伊・・・
もういっぺん・・・・」

弐伊は黙ったまま彼を仰向けにし
そのまま覆いかぶさった。

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