「蒼い月」ダンテ篇

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「人に混じれ」

と 四が言った。

「混じれ?」
意味のわからないことばかりだったが 今のダンテにはその言葉にすがって里をめざすしかなかった。
いったい この先どうしたらいいのか、見当もつかず ダンテは 途方にくれるばかりだ。

里にさしかかったとき すれ違う人が皆 悲鳴を上げて 彼から逃げていく。
ダンテは血まみれだったし、大きな剣をずるずる 引きずっていた。
思い直して、ダンテは土手を下り、川べりの小道にはいった。
丈の高い葦が人の目を遮ってくれる。
それが少しひらけたところで 着物とからだを洗った。
ごろりと横になりゆっくり流れていく雲を眺める

なにも 考えたくなかった

ふと きがつくと すこしはなれたところつないでにある渡しの船が
誰も乗っていないようなのにがたがたと揺れている

ダンテは剣を手にし、恐る恐る近寄ってみる。
船の中では男女が色ごとにふけっていた。

「うゎっ!」
こどもはウサギのようにのびのくと猛然と逃げた。

男は 半身を起こしその後姿を見た。
こどもは途中 思い出して 着物を取りに戻り、またあわてて走って行く。
その様子がおかしく、男はしばらく声をあげて 笑っていたが
「あいつか・・さて、仕事の始まりだ」
そういって また 女におおいかぶさった。

***



「腹・・・減った。
山、 帰ろうかな。
・・・にいちゃん」
ダンテは小さな社の柱の陰にいた。

誰もいなくなった 山で こどもひとり どうしてやっていけばいいのか。
しかし この里にあっても それは 同じことだったのだ。
自分はこの里では異質な存在。ここに来るまでにも 人々におかしな風体だと指をさされた。
着物をかぶってみたところで、なにも解決しないが、それがダンテの精一杯だった。

それでも 生き延びなければ・・・
兄は死んでしまったのではなく眠っているだけ」なのだ。そう 四は言ったのだ。
「かならず 起こしに行くから・・」




「しょぼくれた 餓鬼だ」
上のほうから声がかかり
見上げると さっき 船の中にいた男が立っていた。
「あ、わるいやつだ!」
ダンテは 跳ねるように立つと剣を構えた。
「おぅおぅ ちょっとまて、いきなりなんだってんだ」
「さっき おばさんをいじめてた」
「ばかたれ。 おばさんは 喜んでいたんです。ガキにはわからん」
「ガキガキっていうなっ! くそおやじっ」
「ほほう、ではお名前をうかがいましょうか?」
「・・・ダンテ」
「よぉし、うちに来い、ダンテ」
「誘拐するの!?」
「なにいってんだか。 
これからどうしたらいいんだろう・・・って、おーきく 顔に書いてあるぜ。」
「お・・おじさんのとこ いってもいいの」
「おじさんは やめろ。
弐伊さまと よべ」



「ニイサマ?・・・やだ、おっさん」
「反抗期か?このやろ。 おまえ めだつからコレでもかぶってろ」
そういって ふところから 手ぬぐいをだして ダンテにかぶせた。
なぜか 用意していた筵で剣をまくと、さっさと歩き始めた。
「あ、まて!剣かえせぇ、おっさん、おっさん!」

口ばかりが 「返せ返せ」と 繰り返す。
はじめて気安く話した 里の人間。
ついていきたい ダンテだった。





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