「蒼い月」バージル篇

§25 水晶の柩 H-mix


時は刻まれる
月が中空高くきて、日付のかわったことを告げる。
兄弟が楽しみにしていた 誕生日。
月は紅く染まりはじめ
光の壁は その輝きをすこしずつ失っていった。

******


ただならぬ邪気を感じて3人は飛び起きた。

「来たか!?四、気づいているな?」
「もちろん。 バージル!?」
「四兄ぃ!これは!?」
「うん。 おいっ、ダンテ 起きろ!」
「剣をとれ! 稽古じゃないよ!本番だ!」
「バージル、おまえの成長ぶり みせてもらうぜ」
「まかせて! 四兄いlが危なくなったら 助けてやるよ。」
「いいね。たのもしいこった」
「にいちゃぁん、なあにぃ? まだ暗いよぉ」
「お客さんだ。 盛大にもてなすぜ」
「楽しいパーティの始まりだ」
「パーティ?なにそれ・・・」

先に四とバージルが家を飛び出した。
ネロがふりかえり微笑んで言った。
「ダンテ、こわかったら隠れていていいよ。いいね。大丈夫だから。
ぼくと四がかならずきみの兄さんを護る。
・・これまで ありがとう」
「ネロ・・くん?」
そしてネロも風のように飛び出していった。

ひとり残ったダンテもようやく異様な事態を認識してきた。
「ぼくの 剣を」

空も 月も真っ赤に染まっていた。

ダンテはそこに あの焼き討ちの日に見たのドクロのような顔の悪魔を見た。
一匹ではない。
獲物にたかる野犬のように殺気立ち、秩序を失った 悪魔の群れだ。
ダンテはギリッと唇を噛む。
シュッと空気を裂く音を立て、一匹の悪魔の鎌がダンテを襲った。
鎌はダンテの剣の柄に止められる。
ダンテは頬をつーっと落ちる血を ぬぐった。
「なんだよ。おまえ、なんなんだよ!」
ダンテの大剣に跳ね上げられた悪魔は、堕ちざまにた叩き斬られ砂塵に帰した。

「ダンテ!」バージルが駆け寄ってきた。
「ごめん、遅かった。大丈夫?血、でてる」
「にいちゃん。 平気だよ!こんなの舐めたら治る。
行こう!ぼくも闘う。今度は負けないよねっ」
「もちろんだ!」


ネロと四がつぎつぎと使い魔たちを薙ぎ払ってゆく
バージルも空気を裂くような剣さばきを見せていた。
「やるな」
いつのまにか背を合わせていた四が振り向き、目を細めて言った。
バージルは嬉しかった。
見れば、剣はまだまだのダンテも 面白い動きで相手を翻弄していた。
この最悪な状況の中でこころひとつに闘えることに 感動さえした。


やがて 群れは 片付けられた。
ほっとしているバージルとダンテの横で
「これからだ」
とネロがつぶやいた。
「にいさん、会えてよかったよ」
四が応えた。

****

「バージル、成長したな。 これを まっていたぞ」
空気を震わすような声とともに
岩壁のような 魔人があらわれた。
冥王 無道。

あらゆる 忌まわしい記憶が バージルに閃光のごとく蘇ってくる。
目を見開いたまま立ち尽くす彼を 四が支えた。
「大丈夫。俺がおまえを護る」

四は無道とバージルの間にたちはだかり叫んだ
「二度と こいつには 触れさせない!」

「四!」
ネロの合図に四はうなずいて返した。
ふたりは 印を結ぶと彼らの内にある力をオーラにして バージルに向かって一気に放出した。

オーラに包まれた、バージルは一瞬その姿を消す。
輝きがおさまり ふたたび姿を見せたとき、彼は水中花のように水晶の柱に閉じ込められていた。



「なにするの!」
ダンテが悲鳴をあげた。
「にいちゃん! にいちゃん!」

「ダンテ、お前たちは 双子だ。
もともと 双子として生まれるべきだった。」

四が口早に説明する。

「バージルの時間は停めた。
滝の裏に封印する。

時がたち、 おまえたちが あるべき姿にもどったとき彼の封印は解かれ
ともに 戦うことで冥王を打ち破ることができる。

それまで、逃げろ。生き延びろ。
人に混じれ。
行け!!!!」

ダンテには聞き返すことができなかった。
無道の手がこちらに伸びてきていた。
逃げろ!
四の声に追われて ダンテは跳んだ。
振り向かなかった。
全部夢だと思いたかった。

振り向かないダンテは知らない。
そこで無道と闘っていたのは
黒と青の魔人だった。
四とネロ、ふたりは最後の力を出し切って
怒りに狂った無道の額を割った。
同時に無道から放たれた無数の赤い剣は ふたりを貫いた
やがてその場にもう一つの世界の口が開く
すべてつつみこみ何事もなかったかのように、 静寂がもどってきた。

****

冷たく、時を停めた 水晶の柩で バージルは眠る。

森を跳びぬけながら ダンテは泣いた。
あまりにもきびしい 10歳の誕生日だった。


*バージル篇 おわり*





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