「蒼い月」バージル篇

プロローグ 音楽を流します


画 : canson
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時を刻むのを忘れたような 深い山である。
ただ 木々の巨大さのみが 
人にその時の長さを感じさせる。

けもの道さえない森を
風のように駆け抜ける影がふたつ。
ひとつはちいさく、
もうひとつはそれより ひと回り大きい。
ときおりその影から 
きゃっきゃっという 
笑い声が聴こえるが、
それが夢なのか、
うつつなのか

心地よく たゆたう
幻想の世界にあるようだった。

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その深い山の 
ぽかんと 開いた
陽だまりの土地に 
ひとつの村があった。

見る限りでは 
二十足らずの世帯しかない、小さな村だが、
家々はふもとの村の木造りのものとは異なり
煉瓦を積み上げたものだった。

銀の髪と大きな青い目をもつ人の棲むこの場所を、
ふもとでは異形の村として怖れていた。

この村の祖先が
はるか昔、
異世界のものから人間を守ったという言い伝えは
この地方に広く知れていた。

長い年月の間に
敬意は怖れへ、
怖れは差別になりかわり、
できるだけ関わらないようにすることが
当たり前となっていた。

村は貧しくはあったが、
いちど守ったものは見守っていく、
誇り高い精神を守っていくという教えを
引き継いでいた。

この村は 主に
狩ってきた獣の皮を細工したり、
道具をこしらえたりという、仕事を生業としていた。

里と山。
全く交流がなくなったわけではなく、
里のもの、 山のもの、
物々交換の機会をみては 
微妙な関係を保っていた。



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