境界線 <Chapter Zero>

  (BGM ON)   pmeloo frozen night

*不器用なハート***




珍しく ノックをし、
その場で 待つ。
いつもならノックもそこそこに
部屋に飛び込んでいるのに・・・。

内側から扉がひらく。

「ごめん・・・」

自分でもバカじゃないかと思ったのだが
さんざん 迷って口をついた言葉が それだった。
弐伊は一瞬怪訝な顔をしたが、すぐに笑って言った。

「なにか したのか?
入れよ」





テーブルにパニーニのサンドウィッチ。
ターキーローフと
弐伊自家製のパンツェッタ。
トマトジュースとバーボンが置いてある。

ダンテお気に入りのメニューだった。
ただし、トマトジュースはダンテ、バーボンは弐伊専用だ。

「もう食事はすませた? 送別会だ。
どう、準備は完璧?」
「あ・・ああ。」
「なんだ その顔は。
たったの1年だ。
俺からいわせれば、たった、そんだけで何ができるってなもんだな。」
「いいんだよ!
なんだよ、ずっと行ってろって、いうの?」
「お前が納得するまでやりきればいいということだ。
後悔しないようにな」

それはそうだ・・・

「・・・わかった。
弐伊は・・・弐伊は
待っててくれるよな」
「その 待つ、って意味は
女が恋人の帰りを貞操を守って待つっていうような、アレ?

残念だけど、俺は男だし。
ちょっとそういうのは わかんないね」

そういった口の下
弐伊は心の中で舌打ちする。

(ああ、また やっちまった・・・
俺はこいつが今望む言葉を知っているのに。
俺自身がまさに何を望んでいるのか わかっているというのに)

うつむいて唇を噛んでいるダンテの背後に立ち
大きく腕を回して抱きかかえる。
耳元に口を寄せて言った。





「行くなよ・・・」
「え?」
「って言えば、おまえは行かないのか?
おまえはそんなやわじゃないよな。 
俺もおまえの足枷になるようなつまらんことは言わん。

俺たちは 
自分の中に もう一人別の自分を抱えている。
それは 精神的なものではなく
実体をもったものだ。
おまえは・・俺の別の姿を知ってるよな」
「・・・」
「おまえの内にある別のものは
俺や四とは比べ物にならないほど
強力なのだろう・・・
おまえが それに 自ら向き合おうとするのは意味の深いことだ。

それを知った時、
おまえが ちっぽけな俺から離れて行くんじゃないかって
ほんとは びくびくしてるんだぜ」
「また弐伊がそんなこという!
・・・オレは、オレは
まだ迷い道にいる ガキだ。
ワガママ言ってんの、わかってるけど
ちょっと 探し物してくるから、
ここで灯りともしてまってて!
そうでないと、
オレは 帰るべき場所を見失いそうだ。
だから・・・」
「おまえのその言葉に縋っている俺がいるんだな」
「こんなに好きなのに、こんなに信じているはずなのに、
なんでこんなに不安になっちゃうんだろう」

ダンテは 自分に回されている腕に少し力がこもったのを感じた。

「おまえも俺も、きっと とっても不器用なハートの持ち主なんだよ」





***








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