LOST and Found 2

失われた日々 ♪夕日色:光闇世界


***

「長、すまない。 俺たちがついていながら、あのガキ共・・・」
「ふむ・・弐伊は、まもなく 戻ってくるだろうが
ネロの気が全く感じられない・・」
「仕事がおわったら 集合することになっていたんだが、どこへ ふけやがったのか・・」

村の集会所はぴりぴりした空気に包まれていた。
それに不安を感じてというより 大いに好奇心をそそられて
四はいてもたってもいられない。
「なに? なんだよ、事件?」
会合に加わることができるのは16になってからだ。
四はまだ15だが、まもなく16をむかえるし、
体がおおきく、自分ではいっぱしの大人だと 思っていた。
それでも 遠慮がちに集会所の扉から 顔だけのぞかせ 様子をうかがった。

「あのぉ、なんすか?なにか、あったんすか?」
大人たちの目が一斉に自分に向けられ
四は少し首をすくめて、どなられるのを覚悟した。
しかし 長が四を認めて、その場に招き入れた。
四は おずおずと 大人たちの輪に入っていった。

「ネロの所在がわからなくなった」
一瞬何を言われているのか、すぐには理解できなかった。

***

七日前、ずっと西の国へ
兄、ネロと幼馴染の弐伊は大人のチームに混じって出かけていった。
彼の地で起こった戦争は
神の御名のもと、異端者の制圧という大義名分で人間が起こしたものだが
人間の心の糸をひく魔がしゃしゃりでて
残酷きわまりない展開を見せていた。
人間同士の争いならば、人間同士で解決するしかないのだが、
それを面白半分に煽る魔は魔の手で抑える。
人間と魔、そして神の世界を鮮明に区切るのが彼らの役目。
そして人間の負を食い物にして巨大化するもの達の中に
彼らの間に伝えれられている 過去、世の混沌を企て封じられた冥王の復活の兆候を
探っているのだった。

ネロと弐伊は本格的に真剣を扱うようになってから まだ2年ほどしかならないが、
前世の作用でもあるのかとおもうほど上達が早く、
あっというまに 村で一、二を争う腕前になってしまった。
周りの者はそれを羨望するわけでもなく、むしろ、「役割を負った者たち」の徴をそこに見て
感慨を深めるのだった。
そして彼らが護るべき「預言の子たちの出現」の近さと畏れを 覚えていた。

***



いつも一緒にいるふたりの周りをちょろちょろしては
邪険に扱われ、口を尖らしているのが
ネロの弟の四だった。
ネロよりも大きく、また顔もごつごつしていたので
「おまえら、ほんとに兄弟か」とからかわれるのだが
「いつかは美剣士三羽烏だ」と 野百合を抱いて格好をつける。
「百合が枯れちまうぞぉ」
「兄貴・・・そりゃぁ、ないよ。
俺だってね、あと2ミリ目がおっきくて、1ミリまつげが長くて
3ミリ鼻が高く、顎を少し細く尖らせて、一回り口がちさかったら、
兄貴とそっくりなんだからな」
「おまえ、それ、全面修正じゃねぇか」
「おおおっ、弐伊までいう!?」

そんなやりとりを 四は楽しんでいる節があった。
それは裏返せば兄への賛美。四には大いに自慢の兄だった。
一方でネロは少々女っぽい顔立ちの自分に比べ
男っぽく、また性格も明るい弟をうらやましくおもっていた。
一緒に里へ下りて商売をしているときなど、その顔のせいで
男からも女からも絡まれることがあったが、無駄に事を大きくしたくないので
だまって耐えるばかりだった自分の前に立ち、
四が下心ありありの相手をけちらしたことも度々であった。



***

「ネロと弐伊の剣の指南は長・・・リーダーが直接行った」
「父さん?」
「そうだ。この2年後、長が異国・・東ヨーロッパの紛争の中から救った
人間の女性を連れ帰ってくる」
「母さん・・・」
「・・・おまえ、生まれたときはピンク色だった。
いまはうす青いくらいに白いけどな」
「や・・・もう、茶化すなよ。
・・その時運命を感じた?俺たちの」
「ははっ、さあ・・どうだったかな。
あんまり小さいから、おっかなびっくりで、それを感じるどころじゃなかったかもな。
剣に関しては厳しい長も、赤ん坊のお前にばかりはメロメロさ。

弐伊と兄貴が剣の指南をうけているとき、
俺も陰で手製の木刀をふるっていたんだ」

***

正式な真剣による稽古は16歳からだが
その技術を陰から盗み見ながら模倣するのは
暗黙の了解であり、むしろ、そこに修行のスタートはあると考えられていた。
誰が指示するわけではないが、自ら欲して剣の道に触れようとする姿勢が
求められていたのだ。

***

「弐伊・・・また・・・」

指導を受けるネロを見つめる弐伊がいる。
そして その弐伊から目を離すことができない 四がいた。
厳しい稽古であるにもかかわらず、
ネロを見る弐伊の口許には穏やかな微笑があるように見えた。
目からは剣を振るうときの厳しい光が消え
愛おしむようなやさしさを感じた。ネロを目にいれることの喜びさえ表れているようにもみえる。

「俺もその目が欲しい・・・」
四はその時初めて兄に嫉妬を覚えた。
「あ?なに 考えてんだ、俺」
自分の突拍子もない感情を その時はすぐに打ち消そうとした。

弐伊も美しい剣士だが ネロのような女性的な線の細い美しさではない。
無駄を完全にそぎ落とした身体はしなやかな鞭のようであり
それでいて 欠けることのない打ち込まれた鋼のようでもあった。
剣をもてば 目には狼のような鋭さが宿り
視線だけで 相手をひるませることもできそうだった。
話しかけてもどちらかといえばそっけないほうで
それさえも 四にとってはクールでかっこよく思えたものだ。
どれをとっても 自分にはないものが魅力的で 憧れた。

しかしそれが ふと「恋」にちかいと思ってしまったのだ。
弐伊が兄を見る目に仲間に対するそれとはちがうものを感じた。
恋愛感情のようなものを抱いていると確かめたわけではない。
けれども そうだと 四が自分勝手に感じたこと自体、
すでに 四が弐伊に対して憧れとは違う感情を覚えていることを表している。

そんな時、西の国の戦争へ ふたりは駆り出されたのだ。

***

「俺も行きてえ! 絶対役にたつとおもうけどなぁ」
「四はだぁめ。みやげ、買ってきてやるよ。
むこうの砂糖菓子、おまえ 好きだろ?」
「んなもん、いらねぇよ。ガキ扱いすんな。
兄貴なんか、ま〜た 魔物に狙われるんだからな。
獲って食われちまうんだからなっ。
俺が守ってやるよぉ」
「はいはい、おにいちゃんは俺がちゃあんと見てるから」
「くっそ〜!!弐伊も兄貴もイイ仲なんだろ!
このホモ野郎!」
「はは!どこで覚えた、そんなの。
そうだなぁ・・俺、お前のにいちゃん 嫁さんにもらおうかなぁ」
「ほぉら見ろ、ホモホモホモォォ」
「やぁめろ、弐伊。お前にしちゃめずらしいな、そんな冗談かますの。
四、一週間くらいだろうから、その間、イイコにしてなよ!」
「い・・・イイコ!!お・・おぼえてやがれ!クソ兄貴!」

ネロと弐伊は出かけていった。

そして 四が言った冗談は現実となり
ネロと四の兄弟が再会するのは
一週間後ではなく 20年近くもたってからとなったのだった。





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