LOST and Found
 5

哀しみの亡霊は いま微笑む ♪1と0の狭間:あおいとりのうた


画:canson

***

「弐伊のことをよく理解していた長は
端(はな)っから弐伊を村につなぎとめるつもりはなかったようだ。
兄貴が消されたのは、預言を成就させまいとする 大いなる悪意の始まり。
しかし 預言の双子は必ず現れる。
時が来れば必ず“彼”を護れと、諭され そして 弐伊は去ったんだ・・・」
「四兄ぃ・・・もしかして 俺の護り人はネロ君だったんだろうか」

―― いいや。君の護り人はまぎれもなく 四だ。

カウンターの奥に人影が浮かぶ。
四は息を呑んだ。

(にいさん・・)

それは元の姿をとりもどした18歳のネロだった。
バージルが知る13,4の少年ではない。
ふたりはなにか声をあげようとしたがそれはかなわなかった。
ただ高揚するこころを持って、ネロの言葉を聞いた。

―― バージル、久しぶりだね。
―― いい顔をしている・・・あの頃の君はどこかしら哀しそうな影を浮かべていたから

―― 僕の役割は、四と一緒にキミの時間を停める、そこにあった。
―― あれはひとりじゃぁ 成し切れる技じゃないからね。
―― 僕らが兄弟として存在した理由がそれだったんだ。

―― ・・・僕の肉体は18で死んだ・・・
―― 狂気の冥王は食いちぎりバラバラにした僕を組みなおし 偽りの命を吹き込んだんだ
―― それは完全に僕を支配下に置いたと驕(おご)った冥王の大きな誤算だったろう。
―― 冷たい 動く人形となっても 運命は僕と君たちを引き合わせた・・・

―― 君たちが、砂粒のような記憶の欠片に水を注ぎ
―― 堕ちた魂に誇りを呼び覚ました・・

―― 君たちと過ごした最後の4年、肉体は滅びていたが、僕は魂の幸福を取り戻すことができた。
―― 兄弟の再会も果たした・・それは四が心の底に抱えていた罪の意識を癒したはずだ
―― すまなかったな、四。おまえにいらぬ負担を強いた僕こそ許しを乞わねばならないんだ。
―― 友には・・・会えなかったが、それで いい・・
―― 常闇の死の世界にいても 四や 弐伊の想いが流れ込んでくるのを感じていた・・・嬉しかった
―― いま思えば、奴ほど・・・弐伊ほどあたたかい光、ほんとうの愛を求めていた奴はいなかったのかもしれない。
―― けど、あいつが僕に見たのは絵に描いた理想の光でしかない。
―― 僕は僕で 冷たくも美しく流れる天の川に大翼を拡げる鷲座を見上げては その冴えた力強さに彼を重ねた。
―― 僕らは互いに敬愛しあう仲だったが、ははっ、恋人じゃぁないよ。
―― 彼に本当の光を注いだのは ダンテなんだ。
―― 小さなダンテは本能的に感じていたんじゃないかな。僕が彼と同じ属性をもっていたことを。
―― だから バージル、君と僕が剣の稽古で意気投合したりすると やっかむんだよ。
―― 洗った着物に蛙が入ってたりさ、かわいいイタズラしてきたよ。

―― そしてついに あの日がやってくる・・
―― ゆがめられた時も運命は織り込み済みだった。
―― その時を修正する・・・
―― 僕の役割はそこまでだった。

―― 僕が消えたのは、さだめ。
―― 宿命の子を護るのは四であり、弐伊だ。
―― 僕の18の失踪でさえ、事故ではなく 
―― それぞれの絆を深めるために与えられていた機会だと思えば
―― 宿命とはなんと大きな力なのか・・・
―― 四、そんな顔するな。僕は僕の役割を果たせたことで悔いはない。

―― 僕はね、いま穏やかな世界にいるよ。
―― 逆にバージル、君たちには次から次へと試練が訪れる。
―― けれども 四がいるから・・・。君にも、こいつを よろしく 頼むよ。
―― 四、お前もがんばれよ。絶対に バージルの手を離しちゃいけない。

ネロは消えた。

ぼう然としていた四はバージルに手をとられてはっとする。
バージルは四の手で自分の手を包み、言った
「離すなよ」
「おまえが離れるといっても 離さん」
「四兄ぃにもかわいいときがあったんだな」
「あったりめぇだ。かわいいかわいい天使ちゃんだ」
「ハナタレ小僧じゃなくて?」
「はいはい、その元ハナタレ小僧に惚れてるのは誰ですか」

バージルはきれいに笑って見せた。
そのとき 四はこころから安らぐ幸せな「今」を感じたのだった。





 前のページ  次のページ  Lost and FoundTOP  小説館トップ   総合トップ