着信音はやさしく



弐伊は小柄な老人と向き合っていた。
いかにも人の良さそうなその老人の求めは 
自らが収集した「割れた青いアミュレット」を完成させるもう一方の欠片を探して欲しいというものだった。、
それは意図的に半分に割られていた。
アミュレットは 過去、ふたりの修道者が悪魔を封じたもので二度と人間界に現れぬよう
ふたつに割り、それぞれが引き取ったという。
その謂れから 弐伊に依頼をしてきたのだ。
弐伊は 老人を注意深く観察し、
アミュレットを再びひとつにしようとする その意図を探っていた。

そのとき 弐伊の携帯が金属的な音で着信を伝えた。

「はい・・・いや、番号違いだ。・・・いや、かまわない」
弐伊は電話を切った。
老人が興味深そうに眺めているのをみて 弐伊は言った。
「パスワードがないものでね・・。 
あなたはどこから俺達のパスワードを手に入れた?」
「わたしのコンツェルンがこうして世界的に拡がりをみたのも
さまざまな筋からの要求に確実にお応えしてきたからでしてな・・」
「さまざまな筋・・」

見た目からは想像もつかないほど、
食えない爺さんだ・・・

そう思って苦笑いしたところで、
こんどは ピヨピヨと とぼけた音で携帯が鳴った。
シリアスな場面にはとても似合わない。

「ちょっと失礼する」
弐伊は極力鷹揚な態度で 部屋を出た。
扉が閉まったのを確認して
ばたばたと小走りに廊下のつきあたりまで移動した。

「もしも・・」
「おそーいっ!もう切っちゃおうかと思った!」





「ダンテ・・なんだ、今仕事中だ」
「うん、今晩は7時ごろ行くけどいい?」
「そ・・そんなこと メールで連絡しろ」
「声がいい・・・」
「こどもか・・おまえは」
「アニキの成績優秀者バッジ獲得祝いパーティーの相談したいから」
「ああ、わかった。 じゃぁ、四も呼んでおこう。
おまえ 仕事は?」
「もう片付けた」
「ケガは?」
「するかよ、あんな雑魚野郎相手に」
「そうか、でも気は抜くんじゃないぞ。
ああ、それから いま受けようとしている仕事は おまえとタッグを組む」
「ほんと!?うぉっ、めっちゃ うれしい!
そうか、とうとう 弐伊も俺の力を必要とするか・・・
うん、 大船に乗ったつもりでいてよねっ」
「はいはい、 じゃあ、この話は後でな。」
弐伊は電話を切ろうとする。
「ああ、まって、弐伊、弐伊!」
「なに?」
「あいしてるぅ!」
「ぶぁ・・・切るぞ」

老人の待つ部屋へ向いながら
弐伊は頬を両手で一発叩いて 気を引き締めなければならなかった。

一方のダンテ
「おもしれぇ、弐伊が焦ってる顔が目に浮かぶわ。
ほんと 恥ずかしがりやなんだから。」
そう言って 携帯にキスをした。





 前のページ  次のページ  着信音はやさしく top  小説館トップ   総合トップ