卒業
§7
Midnight KissA  (♪カンナビス あおいとりのうた ) 

隣の部屋は相変わらずどたばたとうるさいが
しばらく自分のレポートに集中していると、気にならなくなってきた。

バージルはふと気付いて ココアを二杯入れると
扉越しに声をかけた。
「ダンテ? ココアいれたけど・・・」

静かになっている部屋を覗くと
テントはちいさくまとまり、円柱の袋に収められていた。
荷物は まだ乱雑だが 大体のグループ分けはできているようだ。

その中で、ガイドブックを腹に乗せダンテは眠り込んでいた。

「ガキだな」

ココアをわきに置きコットン毛布をかけてやった。

マグカップをふたつもったまま バージルは窓際に立ち
高くあがっている 月を見た。

目の下のほうに なにか動いたような気がして
そちらを向くと

「四・・・」





彼が気付いたことを知ると
下からも手を振ってきた。
「ちょ、ちょっとまって・・・」
独り言のようにいうと
ばたばたと 階段を駆け下りていった。

***

街灯の下、舗道でたたずむ 四がいる。
「なにしてんの、こんな時間に、こんなとこで」
「仕事の帰りで たまたま通りかかったんだけど、
この部屋の明かりがついていたし
なんとなく おめぇがでてこないかなぁって。
通じたな」
「来る? コーヒーでもいれようか」
「いいね。ダンテは?」
「来たら、わかるよ」

***




「ああ、やってるなぁ、進んでるのか?これ・・・」
ダンテの様子を見て
四は 呆れ半分に言った。
「こいつなりに頑張ってるんだよ」

そのとき 寝返りをうったダンテから 毛布がずり落ちた。
バージルはすかさず 毛布をかけなおしてやっている。

「あーぁ、なんて やさしい おにいちゃんだろうねぇ。
よし、寝床につれてってやるよ。」

四は小声でバージルにいうとダンテを背負った。
「でっかい ガキだな」
「わりぃ、四兄ぃ・・」

そういってバージルが四を見上げた一瞬

「!」






羽が触れるように
軽く、やわらかなキスだった。

「おまえが あんまり かいがいしいからな。
俺、妬けるね」

***


「お前もがんばってるな」
「う・・ん、 あと ひといきで おわるんだ・・」

四は マグカップをなでまわしながら
ときおり キーボードをたたいては
画面に釘付けになって論文を確認しているバージルの背を
ながめている。

「なぁ、バージル・・・?」
「・・ん?・・・」
「もう 遅いぜ?」
「もう 終わる・・」
「ちょっとこっち 向けよ」
「なに・・・ゎっ」





「姫も おやすみなさいませ」
「姫じゃねぇ! 離せよ」
「い・や・だ。
こうやって お前の邪魔して
お前の困った顔を見て
それから
お前が休むのを確かめたら
俺は帰る」
「もう 終わらせる。 まっててよ。
泊まってけよ」
「だめだ。そんなことしたら
朝まで 寝られなくなっちまうから」
「・・・」
「いいから お前はこのまま
俺にかかえられて ベッドに寝かされろ。
いい子だから」

***

「おやすみ。じゃぁな。 寄って よかった」
「・・・おやすみ」




(画:ナターシャ)
***



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