卒業
§4
ルートマップ2   


(感触)

あの時

たとえ自我を失っていたとしても
この手で大切な命を奪ったという 事実。
この手は最後の鼓動を断ち切った。

血の色を見た。
色は 目のうちに焼きついている。
急激に冷たくなっていく 恋人に 触れた。
その冷たさを
指先が憶えている。

精神の内側に押し込められた自分は 息の仕方もわすれた。
喉の筋の一本一本を 「誰か」がひきちぎってゆく。
そのぶちぶちと立てる音を 虚ろに聞く。

「誰か」は笑わない。
怒りも、さげすみも、悲しみも ない。

その寸前 
ダンテは異様な嫉妬と憤りに囚われていた。



否応なしに背負わされた「半魔」という定め。
いわれのない差別。
注がれれば注がれるほど 
渇きを覚える愛。

どうでもいいことだった。
これまでは。
やり過ごしていた。
それができた。

それができたのは
あきらめと無関心と 
少しの我慢のせいだった。
それがあれば 自分は笑っていられた。
まわりも それが嬉しそうだ。

しかし その「あきらめ」も「無関心」も「我慢」も
薄い澱となって積もっていった。

笑っている自分の内側で
闇の自分が囁いていた。

ヒトノキモ シラナイデ・・・と

そして ついに 満ちたあの時

(闇の俺と光の俺は 
すでに薄皮一枚で背中合わせにあったんだ)

いつものように
頬から顎へ伝わされた弐伊の指は
知らず その薄皮をめくってしまった。

指はそのままダンテの顔をあげさせ
いつものように
キスをする。


 (ソレデモアイシテル)


声が聞こえる。
「永遠が欲しいならば奪え」と
そして ダンテの右手は
弐伊の胸を貫いた・・・


(my dear one)


(画:ナターシャ)
***



 前のページ  次のページ  卒業TOP  小説館トップ   総合トップ