Stay with me. ('caz i luv u)

§1 邂逅 音楽を流します




Stay with Me 1

***

痩せた三日月の引き攣れた笑い
小悪魔が徒(いたずら)に投げてよこした過去の幻
ひとひらの葉となり 水面に落ちる

水の輪よ さざ波となれ
さざ波よ 大波となって
彼奴らの小舟を揺らせ
そして思い知らせよ 
魔の血に愛は存在せぬと
仮の舟は はかない夢
彼奴らを 絶望に浸せ
台詞は偽りの言葉でよい
行間に疑念をしのばせ
嫉妬の炎で照らせ
己の演ずる草芝居に
苦悶するがいい

闇のはざまから
きさまらを 呪う

***

「バーボンをダブルで」
「すっかりとっつぁんだな」
「人のことがいえるか」
「こっちにもどってきてからしばらくたつのに
ようやく会えたってかんじだ」
「・・・こんなことになるとは」
「こんなこと?」
「守ってやるはずだったのに」
「救われたのは 俺達の方だったかも」
「それが お互い気恥ずかしかったのかな・・・」
「だな」



「何年ぶり? 弐伊が俺の前から逃げ出して」
「逃げた?・・・そうかもしれん
アイツがさらわれたのは・・・」
「弐伊のせいじゃない。

憧れだった。
兄貴も 弐伊もいいライバルで、親友っていえる仲で
ついていきたくて しかたがなかった。」
「17、8の 血の気の多いときだ。
どっちがより稼ぎ、女をものにできるかなんて
まるでチンピラさ。
剣の腕もそこそこ認められていたし、女だって寄ってくるとなりゃ
もう 舞い上がって、自信満々だ。

あの日・・・
あの日の敵はやばいと・・・
注意されていたんだ。
油断するな、
離れるな、ふたりでひと組になってろ、ってさんざん言われてたのに
詰めのところで 気を抜いた」
「まだ悔やんでんの」
「どうかな・・悔やんでいたら ここには来られない。
懐かしむことができるようになったのかもしれん」
「あの日、なにがあったのか、話せる?
もう 荷を下ろせよ。聞いてやるぜ」
「ほぉほぉ、あのチビ四が すっかり男っぷりをあげやがった。

・・・・

大人たちがさんざん警戒していたわりには
俺たちには物足りない相手だった。
ろくにその場の確認もせず、ふたりして街へ繰り出そうと決め込んだ。
そのとき 双子の女が現れたんだ

この世のものとは思えないほどの美女だった・・・
ああ、そうだ、この世のものではなかったのかもしれん。
まだ硝煙でけぶる場所に現れる女なんざ、怪しいに決まっている。
ネロは 躊躇したんだ。
それをみて 俺ときたら・・・ムキになってアイツを煽ったんだ。
けしかけたんだよ、てめえのじゃ 手に負えないのかって。

俺たちはそこで分かれた。
そして
あいつは そのまま姿も・・気配も消した。
完全な消滅だった。
それが フタをあけてみれば ほんの間近、
手の届くところに奴の実体があっただなんて、
迂闊を超えて 愚かだったとしかいいようがない」

「完璧なめくらましだ。それにはまったのは、俺も、そして仲間たちもおなじだ・・・

しかし、ふたりとも ほんとに若かったんだ」
「若さとか過ちとかですまされるもんじゃないだろ・・・
お前にも・・・すまなかった・・」
「おいおいおい、やめろよ。
弐伊に謝られちゃ 俺はまるで断罪者だ。
そんなのはまっぴらごめんだ。
連れ去れるのが弐伊の可能性もあったわけだし。

なんで 里を出たの?
責任を感じた、って それだけ?

俺は
あの晩、大好きな兄貴をいっぺんにふたりとも失っちまった。
一人はさらわれ
もう一人には ふられた。

・・・ほんとのこというと
あのとき

兄貴のことより 
動揺している弐伊のことが
気になって

その自分が こわいと思った・・・
ヤな奴だと 思った・・・」
「いい年したオッサンが 切なげに言うこととはおもえん」
「郷愁っていうんです、郷愁と。
決死の覚悟の告白だったんだがなあ・・
弐伊が里を出たのは 半分俺のせいだと思ってきたけど?」
「いうな」
「弐伊はいつも本当のところを突かれるのをこわがるんだ」
「おまえはいつも 遊びが本気になる
その本気をぶつけられた方は たまらんぜ。
めんくらっちまう・・

・・・そうだ。
やばい とおもったから 逃げたんだ俺は。
ネロと同じ目、同じ血の熱さを お前に感じた。
流されてそのまま やっちまっても 必ずお前を傷つけた。
・・・ネロのかわりにされるだけの お前だった」
「あいたたた・・言葉はやさしいけど クリティカルヒットですぜ。
やっぱり そうだったんだ。 親友として だけでなく・・・」
「でも 恋愛感情とは ちがうぞ・・・

アイツには姿も 剣も 天から与えられたような 美しさがあった
強い欲求を誘いながら決してとどかない、 触れがたいほどの美しさだ」
「俺は?」
「兄弟なのにな」
「俺、ちょっと寝込みそう」

「ま、大昔の話だ。
会おうと思えば会うこともできた。
おまえも 俺も それをしなかった」

「いま またあのときみたいに おれがせがんだら
どうする」
「その気もないくせに。
いまはいい友人になれる」

いずれにしても 俺は逃げたんだ。

罪の意識からも
・・・おまえからも。
目をつぶれば 逃げおおせると 自分に思い込ませて・・・
かっこわるいぜ」
「ああ、かっこわりぃ









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