悪魔に恋した神様

§6 梔子馨るるときにB





「いてっ」
ミシッと軋むような音といっしょに オーディーンの声がした。
「あら、おでこ ちょっとひっかいちゃった」
「気をつけてくださいよ。ここの美しい竹細工の扉が壊れる」
弐伊は振り向きもせずに 言った。
それは きっとそうなるだろうと 予想していたようだった。
「もう そこまで冷たいと カミサマもおこって 後ろから襲っちゃうよ!
しかし小さな扉だ。まるでニンフの国の入り口のようだね」
「そっと頭(こうべ)を下げてしのぶように入る、なかなか美しい所作とおもいませんか。
こう、なんというか 秘めやか、というか」
「そうそう、ぼくたちの秘めやかな時がはじまる」
「はいはい、よけいなこと 言いました」

綺麗に手をかけてある脱衣所の壁に一輪挿し。
甘い馨りを放つ八重の梔子(くちなし)が
格子窓からラインを並べて差し込む橙の夕陽に染まっている。

弐伊はざくざくと着物を取ると ポンとまるめて竹かごにほおりこんだ。
「うわぁ、弐伊君、全部脱ぐの?薄絹は?」
「ありませんよ。 ま、試してごらんなさい。いいですよ、とっても」
「うん、うん、すごくいい・・・やっぱりナマはいいなぁ」
「ナマ?ナマって・・何!」





「ゆうべは ふたりで熱ぅい時を過ごしたじゃない。
ワシのドリームワールド」
「それって・・・まさか 俺を お・・おかずにしたんじゃないでしょうね」
「おかずだなんて・・・メ・イ・ン」
「・・・・その妄想、奪えるものなら奪って千に裂いて燃やしちまいたいよ、ほんとに」
弐伊はあきれたが、少し苦笑いしただけで
何もなかったかのように 先だって 湯殿に入ってしまった。

「いいなぁ。 いいよ。その筋肉のシルエット。
わしも すぐいくよぉ・・・・・て、こんなにたくさん着てくるものじゃなかったよ・・」
美しい美しいといって しこたま買い込んで着たのはいいが
女物の着物脱ぐのが
これほど面倒とは思わず、オーディーンはため息をついた。

「でも・・・鎧をとるときのように 平和なきもちだよ・・・ニイクン」






***










 前のページ  次のページ  悪魔に恋した神様TOP  小説館トップ   総合トップ