悪魔に恋した神様

§8 神様だって 夢を見るA 音楽を流します





行き当たりばったりに見えるオーディーンだが 
そこは 数多の難局を乗り越えただけはあって、
準備は周到だった。

珍しいものを扱うというので有名な小間物屋への訪問は
すでに約束を取り付けている。
主人が用心棒に弐伊を呼ぶことも 先刻承知していた。

弐伊は小間物屋の入り口で 目の前を横切る長い金髪を見て一瞬仰天した。
「(か・・神?)」
店の土間をちょろちょろしていたダンテが ぱたぱたとオーディーンに近寄るのを
はらはらして見た。
ふたりの間にちいさな赤い石が時おり光って見えていた。

全てのことを終え、
オーディーンが自分に向ってくる。
ちょっぴり 泣きそうな顔に見えて 弐伊は内心とまどった。






「ニイクン、会えてよかった。
顔つき、変わったね。穏やかになってる。
あの子のせいかな?
悔しいなぁ、恋敵のこどもに負けちゃうのかあ・・・・
ニイクンとのお愉しみは 夢でたっぷり いたしましょうか、ねっ」

あいかわらず・・・と 弐伊はオーディーンのやさしい悪ふざけが可笑しくて
ただ目を伏せて微笑んだ。
そして その微笑みはすぐに 自分の手をとった小さな手の主に向けられる。

「(恋敵? 何言ってんすか・・神)」

***

すたすた行く弐伊と そこにまとわりつくような小さなダンテを
オーディーンは中空から眺めていた。

「悪ふざけじゃなかったんだよ、ニイクン・・・・
お楽しみは夢の中だけってことかな・・・
―― え?うぉっっ!!」





ふっと 空を仰いだ弐伊と目が合った。

オーディーンはまるで悪戯がみつかったこどものように
大慌てで頭を抱え、身体をまるめた・・・・
「いや、ワシ、いま見えてないはずだよね」
誰に対してでもないが 自分の行動が照れくさくて鼻白んだ。

しかし 弐伊はまだ中を見上げ うんと伸びをしたその手をチラッと
振って見せた。
そして ツッと、 投げキッスをよこし 軽く笑ったのだ。






おそらく まわりの人々にはちょっとあくびでもしたように見えただろう・・・
それから 傍らでじゃれているダンテをホイっと抱え上げると
肩車に乗せ 通りの角に消えていった。


「コレで終りね、ってことかい?
・・・ああ!もお! あきらめようとしたのに、いちいち ワシ好み!
よい! もう帰って君にあんなことやこんなこと いっぱいしてやる! 夢で」














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