「蒼い月」ダンテ篇

§9 飛べない鳥達 音楽を流します



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ダンテ・・ダンテ・・・

はっと息を吹き返したとき
弐伊の顔がひっつきそうなほど目の前にあった。
大きな安心感と同時に、なにもできない自分にどす黒い嫌悪感が湧きあがってくる。

弐伊はほっとしたような表情を見せたが
すぐに
「おいおい しっかりしてくれよ.。まったく世話の焼けるガキだ」」
と軽口をたたいた。
「じゃあ、もう、帰れよ」
ダンテは自分の暗いつぶやきにぞくっとした。
違うんだ、こんなことが言いたいんじゃないんだと思うのに、口から出てくるのは罵りばかりだった。
「帰って女の尻でも追っかけてろよ。
俺はここにいる。もういやだ。
・・・・くっだらねえ!ニンゲンの世界?
どいつもこいつも、自分のやりたいようにやって、それで魔物が力つけて滅ぼされてしまうんだったら
しかたがねえじゃねえか。んなもん、俺には関係ねえや。
そんでもってあいつが俺らを捉えておもちゃにするんだったら、それもいいや。
楽していい思いできるんだからな。
弐伊もそのほうがいいだろ。
いままで面倒かけてすまなかったな。
ほら、帰れよ」
「ダンテ・・・・
いやだね。連れて帰る。
そんな泣きそうな顔してふるえた声で強がられてもな。
憐れが先に立ってこっちが泣けてくるよ」
「憐みかよ。だよなあ、俺がいるせいで、まわりはみんな死んじまう。
なあんいもできない。魔物はのさばったまんま。
弐伊もにげたほうがいいぜ、俺は死神みたいなもんだからな!」



言葉がどんなに激しくても、こいつは自分を気遣っていると弐伊は感じた。
弐伊は自分の口が恨めしかった。いつからこんなにひねくれた皮肉屋になってしまったのか。
今のダンテは 片翼を失って喘ぐ鳥のようだ。焦りと不安で押しつぶされそうになっている。
それをわかっているのに、突き放すような言葉しか出てこない。
自分こそまるで分別のつかない餓鬼同然だ。

「帰ろう」
弐伊はダンテの手首をつかんだ。
「やだっつてんだろ!なんだよ、おまえは俺のなんだってんだよ!」
逃れようとするダンテを グイッと引き、弐伊は抱きしめた。

「・・・な、なんだよ」
ふいの出来事に戸惑うようにダンテが言う。
「わからん」
「なぐさめてるつもりかよ」
「ちがう。・・・俺は・・・口がうまくないから・・
いつもおまえを傷つける」
「女を口説くのはうまいのに」
「茶化すな」
「・・・・」
「逃げないのか」
「こうしてると キモチいいから」
「一緒に帰ろう」
「・・・うん。
弐伊?」
「なんだ」
「今日は山に連れてきてくれて ありがとう」
「いや、逆につらい思いをさせたのかもしれん」
「そんなことない。・・ほら 山のにおいがする。いい匂いだ」
「そうだな。俺には懐かしい匂いだ・・・・
次に来るのは二年後、兄貴を目覚めさせるときだ。
それまで こらえてくれ」
「俺、弐伊が・・・」
そばにいてくれればいい、といいたかった。
けれども、ふっと湧き上がる熱い感情に気付いて 口ごもる。
「なに?」
「なんでもない。 帰ろう。今日の飯当番は弐伊な!」

ダンテは弐伊の腕をすり抜け、先だって駆けだす。

そばにいて欲しいのは 俺の方・・かもしれないぜ

かすめた想いを振り切るように弐伊はダンテを追って行った。







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