「蒼い月」ダンテ篇

§10 狐顔の女 音楽を流します (音楽とフラッシュムービーが流れます)





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この5年
戦う腕は磨いてきたが、生かされたものとしての役割から目を背けていたような気がする。
山の村へ帰ることを極力避けていたのも、そのためだ。
弐伊に言わせれば、ダンテはまだ薄い膜におおわれているような状態で、それが魔物の目をくらませているという。
それほど護られてまで必要とされる自分の力とはなんなのか。
あと二年で 兄を目覚めさせる。
怜の死をきっかけに、ダンテは これから 自分の使命について考え、行動してみようと決めた。
それは 誰のためでもなく自分を見つめ、確かめる決意でもあった。

怜がすでに預かっていた仕事をかたづける前に
ダンテは 記憶を頼りに、かつて 無道が仕切っていた店のあたりを
もう一度確かめることにした。
無道が消えたあと無道の記憶さえ失せたこの里で、
いまどうなっているのだろう。

店はそこにはなく、かわりに 小ぶりな稲荷堂がある。
まわりの人々に尋ねても昔から そうであったと 一様に答えが返る。
そこには ダンテの知っている時間とは全くちがうものが 流れていたのだった。

奇妙なおももちのまま仕事先にいくと、仕事は取り消しになったという。
その次でも 「悪いが、これからは 頼めない」
と  いわれてしまった。
明らかにあの狐顔の女のさしがねだった。
女の店はこのあたりをまとめる大きな廻船問屋であり、
逆らえばこの地で商いは続けられなかったのである。

「行ってみるしかねえな」
怜の件の顛末を知ル必要がある。なにより無道につながる唯一の道だ。
仕事の斡旋を頼むのにかこつけて女の店に赴いた。

「ごめんくださいまし。
運び屋の 段平でございます」
番頭が取り次ぎ女店主が現れた。

(きさまの正体、見極めさせてもらう)

ダンテはその青い目を伏せることなく、まっすぐに女店主に向けた







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