「蒼い月」ダンテ篇

§12 伝えられた念 音楽を流します



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回り階段を降りきると、そこは つきあたり。
「?」
数回壁を叩いてみたが その向こうから反応はない。
「なんだよ、これ・・・」
傍らに 派手に装飾された鼻の長い動物の像がおいてあり、ニッと 笑っている。
「笑うな、ばーか」
ダンテは像をパシッと一発はたいた。。
すると ゴンと低い音がたって、壁の一部分が横に開いた。

「へえ、こういうしかけ・・・なるほどね・・」

明かりは全く入ってこないはずだが
ぼんやりとした影絵のように中の様子が浮かび上がる。
何体もの不気味な様相のレリーフが壁から自分を覗き込んでいる。
さほど深く降りてきたとは思えないのに、天井がやたらと高い。
その天井に ダンテは目をとめる。
「鐘?」
けっして揺れることはなさそうな、重く 禍々しい装飾の鐘だ。
鉤がぶら下がっており、布がからみついている。
布を凝視しているうちに、ダンテはざわざわと全身の毛が逆立っていくような気がした。

見覚えのある織、色。
帯だ。
村の装束の 帯の切れ端だ。
ダンテは飛び上がって鉤をつかむと
片手で帯の切れ端を むしり取った。

その瞬間、どっと 波のように過去の映像が
ダンテの頭の中に流れ込んできた。

蹂躙される少年。
大男に抱え込まれその顔は見えないが・・

「バージル・・・」



つぎつぎと兄の念は 帯を通じて、いま ダンテに伝えられる。

やがて帯は 役割を終えたように
鎮まり、 つらい映像も消えた。

ダンテは泣きも喚きもしない。
彼の中の怒りや哀しみは、静かに凪ぐ 水面のようだ。

「君のつらさを 僕に分けろ。
僕は君からもらった いたわりを 倍にして 返すよ」

彼は手にしている包みを見た。
「これを欲しがっているやつ・・・
この場所にいて、 おそらく、魔に最も近いもの・・
見届けてやる。」

立ち上がって、目的の相手がいる位置を探す。
部屋のさらに向こうから細く光が差してくる。
「あそこか」

そのとき
目の端に別の布はしを見つけた。
「怜ちゃん・・!?」
それは怜の帯揚げだった。
もともときれいな桃色だったはずだが、血に染まっていた。

手に取ろうとして
一瞬 こわくなった。
またさっきのように こんどは 怜の思いがつたわってくるのでは・・・
「それなら、 うけとめて ・・・あげる」

何体ものニンゲンではないものに弄ばれる怜。
関節ははずれ、腕の骨が折れる。
顔は すでに 目鼻の区別もつかない。
気を失えば 水をかけられ
さらに 苦痛の時間がつづく。
魔物たちの粘液にまみれて
怜は息絶えたのだ。

こんどは 耐え切れず、ダンテは少し吐いた。

「ごめんよ、怜ちゃん、助けられなくて」
涙があふれて とまらない。
(ぜったい、あいつらの 思うままにはさせない・・)

そう思ったとき
「誰だ」
明かりの先から女物の襦袢一枚の小太りの男がでてきた。





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