「蒼い月」ダンテ篇

§19 内なる正と邪 音楽を流します


***
摩禰屋はいわゆる廻船問屋の元締めで、多くの 同業者は 摩禰屋の傘下にあり
請負も売り上げも 管理されていた。
為政者に取り入り違法・合法問わぬ商いの手法さえ、すでに暗黙の了解にあった。
このような異国との取引も胡散臭いこと 極まりないが、
彼らの持ち込む享楽の毒は
それらの匂いをかぎ分ける 鼻も見分ける目も、つぶしてしまった

取引の場には、例の小太りの代官も数人の従者をつれて同席していた

その日、摩禰屋からもちこまれたのは
みごとな鹿の子の絞りの反物や金箔の漆細工などだが
取引の場に披露された その反物には
巧妙に 海図が配置されていた。

さらに赤ら顔の異国人は女将に顎をしゃくり、確認した。
女将が黙ってうなずくと、その異国人は おもむろに たちあがり
ダンテの横に来て その手をとった

「女将!」
小声だが、 弐伊が質す。
「あれは 品物さ。
おまえは わたしの横でわたしを 守っていればいい。
ここまできて 騒ぐんじゃないよ」
と 顔も向けずに いいきった。。

「弐伊・・
奴らが正体を現す・・・
気をつけて!」

背中を押されていくダンテが、すれちがいざま 囁いた。

ダンテが品物扱いされることに頭に血がのぼっていた弐伊が冷静に周りをみると
代官と女将を除き、人の皮を被ったものたちの すべてから
湯気のように青紫色の邪念のオーラが 立ち上がりだした

突然 弐伊の頭の中に直接 声が響く。

「ようこそ 地獄へ。
きさまたちが 自ら のこのこと 出向いてくれるとは
探す手間が省けたわっ!ひとりひとり 始末してくれる!」

うぉぉぉん というような唸りとともに、一気に 悪魔が姿を現した。

代官と女将が泡を食って 部屋の隅に逃げこむ。
弐伊は右手に大剣を顕し構えた。
悪魔とはいえ しょせん 下級。
弐伊は つぎつぎと 切り倒し 下級悪魔たちを 砂つぶにかえていく。

それを部屋の隅でふるえながら見ていた女将に 囁くものがあった。

「ヤツを食え。いまこそおまえの欲を満たせ。
ヤツを食え。食い尽くせ。骨までしゃぶり尽くせ」

女将の中の欲望が膨れ上がっていく。
がたがた震えだし
「ひゃぁぁぁぁっ」 という 叫びとともに
女将は半人半蛇の姿に変わった。

蛇は まず 横の代官を 汚いものを掃きだすように撥ね上げ つぶした。
そして 弐伊にからみつかんと飛び掛ってきた。

弐伊は応戦し たしかに 攻撃はあたっているのだが倒れる気配がない。
「くそっ」
さらに 攻撃の構えをとったとき、腰にしがみつくものがあった。



「新三!!」
その新三が弐伊の知る新三ではないことはすぐにわかったが
振り向いた弐伊に一瞬の隙ができる。
弐伊は 蛇のとぐろに 締め上げられた

****

一方 別室に連れて行かれたダンテ。
扉をあけるとそこに ぽつんと 新三が立っているのを見た。
「新三ちゃん・・・なんで、ここにいるの?」
新三は いつものような ちょっぴり哀しげな笑顔をみせ、そしてつぶやく。
「おまえ 邪魔」
「えっ?」

それと同時に ダンテの背中を抱えていた商人の背中が裂け中に棲んでいた 魔が 起き上がった。
ダンテは 衝撃で跳ね飛ばされ、壁に打ち付けられる。

起き上がった悪魔は巨大で太いミミズのようで、いくつもの 節と 固く短いとげで覆われている。
環状に開いた口からにゅるにゅると触手が伸び、それぞれが勝手にうごめいている。
「きたな!」
ダンテが構えをとると右手に彼の剣が握られる。
フンとダンテは不敵に笑う。
「さあ、始めようか!」
飛び上がり、さらに壁を蹴って
上から真下に、さらに返す剣で横一文字に虫を切り裂く。
しかし よっつになった虫はまたそれぞれがあらたな敵として彼に襲い掛かってくきた。
「うぅわっ・・やべっ」
ダンテは弐伊からもらった 銃の引き金をひいた



ギシャッというよな 音とともに 虫は一瞬石化するが、すぐに もとの姿にもどってしまう。

「どうしたらいいんだ!?」

そのとき 天井のスミに浮いている 新三が見えた。
「きさま・・・!きさまがおおもとだな!」
ヤツを倒さなければ 埒が明かない、そう わかったとき 
ドーンと船が揺らぐような衝撃があった。

「弐伊!!」

ダンテは虫たちのしたをすり抜けるようにからだを回転させると部屋を飛び出した。
弐伊のもとへ駆けつけたダンテが見たのは、塵となっていく蛇と 
黒い魔人だった。






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