「蒼い月」ダンテ篇

§20 銀髪屋見参! 音楽を流します


***




「弐伊・・」

魔人は 消え かわりに 弐伊がいた。
肩で息をしている

(見られた・・)
先に目をそらしたのは弐伊だった。
「ダ・・ダンテ、大丈夫か?」
「あ、うん、もちろん!」
ダンテは何事もなかったかのように、ニッと笑うとウィンクしてみせた。
弐伊もつられて笑うしかなかった。
(どちらがこどもか わからんな)
弐伊は動揺をしてしまったことを少し気恥ずかしくも感じたが、それ以上にダンテのこころづかいを嬉しく思った。
しかしダンテがその場の緊張感を呼び戻すように言う。
「弐伊。新三だ。新三が おおもとだ」
「あ、ああ、そうだ、あいつ・・どこだ!?」
「んっ!くるよっ」

新三がせせら笑いながら 天井辺りにフラフラ浮いて追ってきた。
背後から虫の群れ。

「ダンテ! これで 新三の動きをとめろ!」
弐伊は自分の白い銃をなげてよこした。
二丁の銃はダンテの手に収まるやいなや 猛烈な勢いで火を噴く。
新三は 白い天使の借り衣装を着た ドクロ面の悪魔の本体を現す。
弾の勢いにおされて のけぞるところを
弐伊が空中から 剣の攻撃を仕掛ける。
「ダンテ、やつの胸にある第二の顔を狙え!」
「了解!」
数度の反撃を食らいながら、それでも ふたりは 偽りの天使を粉砕した。

虫は急激に速度を落としてきた。
銃弾を浴びて 石と化した虫は弐伊の剣で あっけなく がれきとなり、消えていった。

いま そこに 本来の新三の亡骸がころがっている。
苦痛から解放されたように穏やかな顔で 眠っている

祝福すべき生の日々を、10年も満たさず奪われてしまった 憐れさに
やさしい悪魔たちは 泣いた。
ふたりは 船に 火を放ち毒の荷を消した。

***

貪欲な代官と摩禰屋の女将が 仲間割れで相打ちしたという噂は
またたくまに ひろまった。
しかし それは ただ 本番の 幕を開けただけだった。
すでに アヘンは広く 深く巷に蔓延し
抑圧から逃れた人々は、自分自身の内側の欲望を あからさまにしだした。
ニンゲンの 悪魔化が始まったのだ。
人々は隣人さえも信じられない。

そんな折。

傾いた 摩禰屋の看板の上に 
大きな 張り紙が 現れた。







 前のページ  次のページ   ダンテ篇トップ   小説館トップ   総合トップ