「蒼い月」ダンテ篇

§21 陽動作戦 音楽を流します


貼り紙をたよりに 店に入った人々は
そこに ぽつんとおかれた 箱を 見つける。

「御用はこちら江・」

脇に 注意書きの別紙があり
こう 記してある。

「ヒトゴロシ いたしません。
ご用向き、居所御名前、お知らせいただきたく候
銀髪屋 参上 いたします
請け賜わり料 相談」

頼りない 文言ではあったが、恐怖と疑念でみちた町はこれを 必要とした。
相談は 常に壁越し、決して その顔を見せようとはしない。
見えるのは銀髪とその人影のみ。
人ならざるものを確実に 始末していく銀髪の影のものの噂は
街道筋全体に広がっていた
ただ、 始末料は「食料品、生活必需品等」であり、
それがなにかしら銀髪屋への恐怖心を軽くさせるのだった。

***

船の件のあと、ふたりは 山へ帰っていた。
ダンテは迷っていた。
「弐伊・・俺達は 魔を抑えているんじゃなくて
煽ってんじゃないの?誘っているんじゃないの?」
「仮に俺達がいなくてもニンゲンの欲は膨れ上がってキバを剥く。
俺達が やつらを集める 目印になってしまうならそれも 結構。

ただ、お前たち兄弟がこの土地に生まれたこと、
それに俺たちがここに長い間集落をつくっていたのには
理由があるはずなんだ。
ひとつの結論がこの地にある。
あいつらは 動き出している。
もう隠れずに、 対面していく方がよさそうだ。
銀髪屋 見参だ。」

ダンテは 髪色を元に戻した。
弐伊も「何年ぶりだろうなぁ」と言って 染め粉を落としてきた。



「なんか・・・変?」
「いや・・・なんだか・・・違うヒトみたいで」
「弐伊さまの本性だ。 惚れなおしたか!?
・・・・・・・」
少しためらった後、弐伊はたずねた。
「おまえ・・俺のこと 怖い? 醜いと思うか?」
「船でのこと?
怖かないし、醜いともおもわない。
けど。 ちょっぴり 魔の血が 恨めしい・・
僕達が敵とするやつらと・・・」
「同じ・・・か」
「でも! 弐伊は弐伊だよ。
どの姿の弐伊も 僕には ほんとの 弐伊だ」
「ははっ、そうか」
「ねえ、弐伊・・・俺もいつか 内側の姿を現す時が来るのかな」
「そうだな。俺はおまえが覚醒するのが楽しみであると同時に
そんなものが発露しなくてもいい日々が続けばいいとも思う」
「どうして?」
「内なる力は戦いの中で発動する。戦うことがいいことだなんて、ないだろ?
それに・・・おまえのほうがずっと強大で、俺なんかおっつかなくなっちまうかもしれないしな」
フフッと笑って 弐伊はいった
「覚悟はできているつもりさ。まずは無道の暴走をくいとめること。
やつがでてくるのはわかってるんだから・・・。

銀髪屋いつ 発進?」
「明日からだ。
後一年もないぞ。
お前の兄貴を迎えに行くまでにな。」

そう・・
渦を巻くように
運命はひとつに絡み合おうとしていた。







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