「蒼い月」ダンテ篇

§4 少女 音楽を流します



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「おっさん!これ黒くねえよ!頭 まっかっか!」
髪を染めてみたが、弐伊のように黒くないので ダンテは口を尖らせていた。

「何回かやっていれば黒くなるよ。
いいの、お前はこどもだから。いっきに黒くするヤツは 毒だ。
気にいらねえなら ほっかむりしとけっ。」
「じゃ、じゃ、 目は?隠しておかないと、だめでしょ?
おっさん、どうやってるの?それ。」
「これは薄い硝子をいれてるんだ。
いたいぞ〜〜〜 おまえも やる?」
「あ、ううぅ・・・」
「やめとけ、きれいな目が傷ついたらいけないからな。
やばいっとおもったら 目をつぶれ。な。」

飯も食べた。
ダンテにはまだ聞きたいことが やまほどあった。

なぜ 自分達が大きな役割をおっているのか。
両親のこと。
村のこと。
弐伊自身のこと・・・

そのとき 引き戸をあけて 女がはいってきた。

「にいさまぁ。 お約束」

弐伊はそっと舌打ちしたが
「はいはい、忘れていません」
そういって 女の背中を抱えて部屋に入れた。

「こども。 おまえ 飴でも買って どっかいってろ。
いまから おとなの時間です。」
「やだ。 ここにいる」
そういうと 女がものすごい形相でこちらを見た。
ダンテはすくみあがると「いってきますっ」というが早いか うちをとびだした。

「ああ、こわ。 悪魔よりこわいや。
でもなぁ、こんな時間に 飴なんか 売ってやしないし・・・」
そういって 家の壁にもたれかかっていた。

半時たっても女はでてこない。
「なにやってんの?」
ダンテは裏に回って障子に穴を開けてのぞいた。
縦にみても、横にみても
ふたりがなにをやってるのか どうにもわからない。

突然障子がばっと開いて 弐伊がでてきた。
「てめ、なにやってんだ!」
ダンテは驚いた猫の子のようにおもてに逃げ出した。

「いったぁ〜 あんた なにすんのよっ」
出た途端、 人にぶつかった。
「ごめんなさ・・・・なんだ こどもか」
「って、あんただってガキじゃない!」
「おめえ ちっこい!」
「なによ、でかいばっかりが いいわけじゃないからね。
ほんとに わたし 仕事の帰りなんだから、どいてよ」
「仕事? ちっこいのに?」
「ちっこい ちっこいって うるさいわね。
そうよ、仕事。 ほんと なんなのこいつ。」
「んねえ、どうやって こどもが仕事できるの?」
真顔で問われて 少女は すこし戸惑った。
「なによ・・・ あんた、誰」
「ダ・・・ダン・・・ぺい。」
「段平?」
「そうそう。段平。君は?」
「怜。」

****

「あんた、 ここの遊び人と知り合い?」
「あ、ああ、今日から知り合い。
ここのおっさん 遊び人?」
「そうよ。 とっかえひっかえよ。
女も馬鹿よね。 あたしは そんな大人にはなりたくないわ」
「とっかえ、ひっかえ?・・・て?」
「やっだ、こどもねぇ」
「ちっこいのにいわれたくないっ」
「こうみえても あたし12なんだからね。
仕事もしてるし。 あんたは?」
「ぼ、・・・おれ?
おれは じゅじゅじゅういちだ。。もうすぐ12歳」
「頭んなか 10歳ってとこね。」

なんだか やられっぱなしだ。
でも ダンテは聞きたかった。
「仕事って、何してるの?こどもでもできることがあるの?」
「今の季節は 鮎を売ってる。 
漁師さんから預かって、かわりに 町で売るのよ。
仕入れてから売るっていうのがほんとなんだけど、
おじいさん、あたしのこと かわいがってくれるから・・。
そのぶん、 一生懸命 高く売るように 頑張ってるんだ。
ほかにも 荷物をはこんだりとか お年寄りのお世話とかして
お駄賃や 食べ物をもらってるの。」
「おとうさんや おかあさんは?」
「おとうさんは・・・・
なによ。なんで 初対面のあんたに こんなこと 教えなきゃなんないの?」
「ぼくも 一緒に仕事ができない?
ぼく、走るの速いんだ。 お届けものできないかな。」
「あんた・・・わけあり?」

怜は ちょっと ダンテの顔をのぞきこんだ。
「あんた・・・宝石のような目、してるね。」
「あっ」
ダンテは目をつぶった。
「どうしたの? はずかしいの? きれいだよ。」
「? そうなの? 変じゃないの?」
「なんか、いじめられたことあるんだ。
そっか、そういうときは おねえちゃんが 助けてあげましょう。
ほんとは 君 いくつなの? 段平ちゃん。」
「段平ちゃん?」
「あんたよ」
「あ、そうそう、ぼく 段平ちゃん・・・えっと 10歳。」
「そっか。 じゃ、明日の朝、誘いに来るね。」

そういうと 怜は 夜道を去っていった。

「ガールフレンドか?」
いつのまにやら 弐伊がそばにいた。
「ガールフレンド?」
「よかったな。仲良くしていろいろ教えてもらえ」
「うん。ぼくも 聞きたいことがいっぱいだ・・・・。

とりあえず、

さっき なにしてたの?」
「うるせ。 おとなの事情だ。」
「おっさん 遊び人? とっかえ、ひっかえ?」
「だまれ、ばかもの」
「ねえねえ・・」

ダンテの人間としての生活が始まろうとしていた。







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