「蒼い月」ダンテ篇

§5 ふたつの血 音楽を流します


******




俊足の運び屋 「段平」は川上の里、川下の町を結んで
その日も街道の上を跳び抜けていた。

彼の場合は 「走り抜ける」のではなく,実際に 「跳び抜けて」いたのである。
超人的なその力は、彼に流れる魔族の血のなせるものだった。

****

自分の内にある魔族の血。
はじめてそのことを知った日、ダンテは家出した。
めそめそしながら河原に座り込んでいると、弐伊が迎えに来た。
並んでごろりと横になり、一緒に星を見上げた。

よき魔の血と よき人の血の 両方を引き継いだのだ。
影が光をひきたて、輝かせるように
光が影を癒やすように
ふたつの異なるものは互に必要とし必要とされる。
そして ひとつになって安定と安寧をもたらす
ふたつの 血を引くことを誇りにしていい。
すばらしいことだから。
愛と絆の象徴だから。
と 弐伊は言った。

「おっさんは・・・魔族?」
「そうだ。あの村は魔族の村だ。おまえのかあさんのほかは皆魔族だ」
「四兄ぃも、ネロ君も?」
「ああ」
「どうして人の世界に来たの?」
「ニンゲンってのは弱いものだ。知らず知らず負の感情に支配される。
しまいには悪魔と化してしまうものもいる。
そうなると、もう俺たちにしか暴走を止められない。
でもな、ニンゲンも素晴らしいと思ってる。
やさしさ、いたわり、慈しみ・・俺はそんなニンゲンの心を大切にしたい。
それを破壊しようとする者たちを打ち破ることができる剣を、俺たちはもつ。
俺は自分が魔族であることを誇りに思っている。
おまえは いまこの世界にある正と邪を見極める目を養うときだ。
魂を磨くときだ。
時が満ちて バージルを目覚めさせるのはお前自身だ。
光と影のように、ふたりがひとつになれば、俺たちよりはるかに大きな力を発揮するんだろう。
おまえのなかにある その血は 希望の血だ」
「・・・うん」

****

いま その 魔の血でダンテは風のように跳ぶ。
あの日からすでに 5年がすぎていた。

「運び屋」の仕事は 怜がとってきていた。
ダンテと知り合ったことで、運ぶ範囲が街道筋全体にひろがった。
彼の運ぶ速さが 評判になり、仕事は順調だった。
怜がとってくる仕事の客は 商家がほとんとだったが、
胡散臭い大店がおおいことに 弐伊は気づいていた。
怜のしていることのそれは 
禁制品や 詐欺まがいの品で儲けた欲の皮を
いつか ひっぱがそうとしているかのようだった。

気づかないのはダンテばかりで、
中身も客も詮索しない 素直な運び屋として人気があった。

ある日、ダンテは川下の町の店からごく小さな包みを預かった。
その割りに、運び代として半年も遊んで暮らせそうな金を手に入れたのだった。

そして、届け先でそれをうけとったのは
はるか 以前。
無道の女房としてみた
あの 狐顔の女だった。



 前のページ  次のページ   ダンテ篇トップ   小説館トップ   総合トップ