「蒼い月」ダンテ篇

§6 魔の足音 音楽を流します



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「おまえ・・・・どこかで 会ったかね」

狐顔の女が言った。

忘れるわけが無い。
小さかった自分に「将来が楽しみだ」といったときの あの舐めるような顔。
あの言葉の忌々しさがいまではわかる。。
あの後 兄がどういう目にあったのか
そして、ネロが「かわいがってもらっている」といった その意味も想像がつく。

「いいえ、 女将さんとはお初にお目にかかります」

女は ふつうの人間だ。
しかし 色と金に貪欲な 魔物のようなものだった。
無道が消えてから死を控えたような大店の男のもとに 後妻としてはいっていた。
間もなく主人は亡くなり女は店を好きに牛耳っていた。

「いま 届けてもらったのは おいしい饅頭なんだけどね、ちょっと上がって たべておいきよ。 
ね、いいだろ?」
ねちねちと 誘ってきた。

「ありがとうございます。 
でも つぎの仕事が控えてますので、ご遠慮いたします。
申し訳ありません」

「そうかい・・・」
女は 不満を露わにした。
「あたしのいうことは 素直に聞いておいた方がいいとおもうけどね。
まあ、いい、じきにわかるというものさね」

***

一日の売り上げは さいごに怜と分けることになっている。
小さな包みとその代金の話に怜は表情を変えた。

「アヘン・・・」

「アヘン?」
「人を虜にし、壊してしまう、恐ろしい 毒よ。
・・・
父さんは、アレに捉われて母さんを売った・・・
母さんは 血のかたまりのようになって帰されてきたわ。
父さんが殺したのよ・・・
父さんはそれも理解せず、アヘンの売人についていってしまった」
「あの 店が関係したところにいるんだろうか、君のとうさん」
「わからない。 でも 会ったら、 わたし、父さんを殺してしまうかもしれない」
「それでも・・・もとにもどれるなら・・・戻りたい?」
「段平ちゃん・・・」

ダンテは 怜が泣くのをはじめて見た。
気が強く、いつも ダンテを顎で使っていた。
しかし 姉のような心遣いを見せてくれるのが うれしく
いい 仲間だった。

「わたし、そのお店へいってみる」
「やめなよ!」
「仕事ありませんか、って、のぞきにいくわ。
段平ちゃん、おねがい。すこし、協力して」
怜はダンテと兄とあの女の関係を知らない。
でも いまは 怜を助けてやれるなら、ふたたび 女のところへ 探りを入れに行ってもいいと思っていた。
それに魔物の影も感じられる。
「ひとりでいっちゃ だめだぜ。あいつらは怜ちゃんの手におえるようなやつじゃない。
先に俺が様子をうかがってくる。それから一緒に動こう。いいね?」
「・・・うん、わかった」

しかし、怜は ひとりでいってしまった。

翌日

怜が冷たくなって
河原にころがされていた。



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