「蒼い月」ダンテ篇

§7 傷だらけのこころ 音楽を流します


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怜は 紫色の煙になって空へ行ってしまった。
残された抜け殻のような骨は
小さな箱にかんたんにおさまってしまった。

「あの 狐顔の女だ。あいつが 怜ちゃんを殺したんだ。
怜ちゃんだけじゃない。
あいつは 無道といっしょになってにいちゃんを、ネロ君をひどいめにあわせてたんだ。
・・・ぶっ殺してやる・・」
「落ち着け、ダンテ。
ああ、きっと怜ちゃんの無念を晴らす時が来る。
バージルも、それから・・(ネロ、おまえもな)
だけど、あの女はまだ欲におぼれたニンゲンのひとりにすぎん。
俺たちがやらなければならないのは かたき討ちや復讐じゃないんだ。
あいつらはきっとしっぽを出す。その時が来るのを待て。」
「俺はいま、いま、いまあいつをぶっつぶしたい!
わかってる・・わかってるよ。俺らはもっと大きな奴を倒さなきゃいけないって。
あの女狐なんか、ただの手先にすぎないって・・。
だけど、あんな・・・ひどい・・・
弐伊、どうして?
どうして・・・
ぼくの大切な人はみんな 逝ってしまう。
どうして・・・」

そういうと 弐伊にすがりついて 泣いた。



ちいさいときから たくさんの大切な人を失ってきた。
笑顔の下にどれほどのつらい思いを隠しているのか。
傷だらけのこころでなお負った使命の重さに堪えている。
護ってやるといいながら、この子の心をひとつも癒してやれない。
弐伊は自分の無力を呪った。
しかし、弐伊はダンテのつぶやきにはっとする。

「弐伊・・・」

「弐伊がいたから、 いま 僕はいるんだ・・。
弐伊は いかないで。
いつか にいちゃんを 助けに行かなきゃ。
たくさんの人たちが ぼくを成長させるために
命をおとしてきた。 辛い目にあってきた。
だから 
ぼくは がんばるから。弐伊、 みててね。」

この子は自分を必要としてくれているのだ。
山の村を逃げるように去ってから、なげやりな生き方をしてきた。
ダンテが来て5年、自分の中でなにかがかわっていく。
それは閉ざした心に灯る、ちいさな明かりだ。
弐伊は自分こそダンテを必要としているのだときづく。

「ダンテ、明日、山へ行こう。 怜ちゃんをつれていってやろう。
安息の地だ」
「山へ・・・?」
ようやく顔を上げたダンテにほっとした表情が浮かぶ。
そして再び 弐伊の胸に顔をうずめる。弐伊はその背中を撫でてやる。
「弐伊・・・心臓の音が聞こえる。
弐伊はここにいてくれるんだね」
「いるよ。甘えん坊君」
「うるせ。こうしてるとキモチいいんだもん」
「そうか。飽きるまでこうしてろ」
「うん」

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