「蒼い月」バージル篇

§10 襲撃 音楽を流します


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「火事だ! 火がでたぞ」

夜半、村を包んだ火。

幼い兄弟が見た、その火は まるで生き物のように猛々しかった。
大人たちが 必死で消火にあたっていた。
バージルは ダンテに
「おまえはここにいるんだよ」
そういいふくめると、蔵のほうへ駆けていった。

ダンテは恐怖してその様子を見ていたが、
「ケケケ」という声を聞いてふりかえった。

骸骨のような顔、赤い目
とっさに 火を放ったのはこの魔物であることを理解した。
兄に知らせようと駆け出したとき、 彼の行く手をさえぎったものがいた。
真っ白な鎧、角の生えた仮面、背中に羽。
立っているのではなく、数十センチのところに 浮かんでいた。

鎧の天使はしばらくダンテをみつめていたが 大剣を手にし、ゆっくりとした動作で頭上に上げたかと思うと
ブンとダンテに振り下ろしてきた。
「この子は殺させない!」
昼間 バージルを里に連れて行った仲間の男がその剣を遮った。
「ダンテ、逃げなさい。お前は死んではいけない」

ダンテがその場を離れると 仲間は一瞬白く光って、その姿を変えた。
黒光りし、羽をもつ姿。
白と黒の魔人は激しく剣を交えていたが、相打って 光のくずのようにして消え去った。

なにもかも わからないことだらけだった。
いつのまにか傍らに兄がもどってきていた。 兄とても  いま その目の前の有様を理解できなかった。





「にいちゃん・・・おじちゃんは 死んだの? ぼくのせい?」
バージルはことばにつまってしまった。
「そうじゃないよ」っていってやんなきゃ・・
でもつまってしまったのだ。

「わたしたちは あなたたちを守るためにいる」
そう こたえてくれたのは 四のいいなずけの初だった
「あなたたちは この世界のバランスを守る使命をおっているの。
まだちいさいのに、 こんなこと、いうと かわいそうだよね。
もうすぐ 四はかえってくるから。
そのときに きっといろいろと 教えてくれるわ。
もう なにか うごきはじめている。
いつまでもナイショにしておけなくなっちゃったね。」
そういって、 やさしく ほほえんでみせた。 

その微笑の上に 光の杭がうちこまれた。
一瞬にして 初は光のくずになってしまった。
2本目の杭が、3本目の杭が 村に打ち込まれる。

奇妙なことに、杭はふたりをさけているようだった。
しかし、確実に他のものに止めを刺していった。

焼け落ちてしまった村。

「なんで・・なんで・・?」
繰り返す問いに答えは返ってこない。

腕の中で震えている小さな弟を撫でながら
少年は 今このときが ただの悪夢なのだと
おもいこみたかった。



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