「蒼い月」バージル篇

§11 陰謀 音楽を流します


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ふたりには 泣いたりしょげていたりする暇はなかった。
まず 寒さをしのぐ方法を考えなければならなかった。

その晩はふたり抱き合って 藪の中で明かした。
「ダン坊、 里へ 行ってみる?」
「むこうで暮らす?」
「いや、しばらくいくだけだ。
もうすぐ 四の字も帰ってくるって、初もいってた。
それに、みんなが ぼくらを守ってくれたなら、 ぼくらは少しでもここを立て直すことを考えようよ。
でも なにもなくなっちゃったから、なにか 役に立つものを、里でわけてもらおう」
「交換するものはあるの?」
兄はしばらく 黙って 弟を見つめていたが
「だいじょうぶ。 仲のいいともだちができたから きっと助けてくれるよ」

そのころ 里。
老人の屋敷。

「兄弟は生かしてあるのかね」
「はい」
「いまのうちに 取り込んでしまえば 先々安泰というもの。」
「なぜ 生かしておかれたのですか」
「せいぜい飼いならし、その力を利用せぬ手はないからのぉ・・・ッフォッフォッフォ・・・」

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「ぼくから 離れたらだめだよ。迷子になっちゃうから」
「うんっ」
弟は楽しそうだ。 はじめての里。 はじめて見る 不思議な様相のひとたち。
同い年くらいのこどもが ダンテを指差して笑った。
ダンテは顔の横で手をひらひらさせて やり返した。
ヒトの子は告げ口するように横の母親を見上げる。 母親はさも嫌そうに兄弟を見た。
ダンテはそんなことは お構いなしだ。通りの端から端へちょろちょろと、兄につかず離れず動き回っている。

ふたりがやってきたのは、老人の店だった

店の前で
「ダン坊はここでまってな、すぐだから。ぜったいうごいちゃだめだよ。
ほら、とおりにいろんな人が歩いてるよ、見ててごらん、ね。」
「わかった。動かない」

老人は奥でふたりのやってきたのを聞いた。
「来たか・・・」
そういってゆっくりと腰を上げた

「昨日の今日じゃないか、なにか不足でもあったかね?
交換の品は なにももってきていないようだが。」

「ぼくを・・・買え」




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