「蒼い月」バージル篇

§12 欲望の家 音楽を流します


******


「今日 一日だけ・・ぼくを買え。

値段だ。
小さくていいから、うちを一軒たててくれ。
場所はあとで指定する。
それと 冬の間中過ごせる米。
それから 金だ。
いっとくけど、まけない。
そのかわり・・・
好きにしていい。
命まではやらないぜ。
ちびをひとりにするわけにはいかないから」

「大きく出たものだ。
なにか事情があったのかね?
わたしも こう見えて情は深いほうだ。
よかろう。
言い値で きさまを買おう。
表の弟は 湯にでもあてて もてなしておいてやろう。」
「あいつに 手ェだすなよ!」
「ふん。わたしを みくびるな」

老人はふたつ手をたたき 下人を呼び、いくつかの指示をあたえた。

「来い」
そういうと バージルに先立って屋敷の奥へ向かった。
いくつかの回り階段を降りた先は行き止まりだ。
その壁の一点を操作すると、そのさらに奥,、
うすぼんやりとしたあかりの部屋があらわれた。

まがまがしい装飾を施した壁のあちらこちらから、
不気味な彫像の顔が覗き込んでいた。
バージルがその部屋に入ると 
扉は ズンッと低い響きをたてて閉ざされた。

老人は 異国のものと思われる 大きな椅子に腰をかけ、
部屋の中央に少年を立たせた。

「脱げ」

少年はいちど目を閉じ、こころをきめたように帯をほどいた。




**



「にいちゃん・・」
ちょっぴり不安になりだした ちいさなダンテのもとに 
年のころなら兄とおなじくらいの少年がやってきた。

「きみ、にいさんは まだ用事がすまないから、
ぼくが すこし遊んであげるよ。
先にお風呂にお入り。
そのあとでおやつがあるからね」

暖かい湯。
下働きの少年がていねいにダンテを洗ってくれる。
ダンテはその少年の顔をじっとみて ふときづいた
「あれ? お兄ちゃんの目も青いの? でも髪の毛は黒いねぇ」
「これは、染めてるんだ。 命令で。 
目の色もちがうし、ひととちがってたら、いじめられるからって、だんなさんが」
「お兄ちゃんはどのくらいここにいるの?」
「よく覚えていないんだけど、10年・・15年くらいかな」
「え〜、15年? おにいちゃん いくつ?
僕のにいちゃんよりも おにいちゃん?」
「もうわからない。 
だんなさんが 一番のお気に入りの姿で ぼくは いなきゃいけないんだ。」
「・・・よくわかんないな。 
お兄ちゃんはここで しあわせなの?つらいの?」
「しあわせだよ。 だんなさんにも おかみさんにも やさしくしてもらってるから。」
「ぼくの村のひとは みんな青い目なんだ。 おにいちゃん、しってる?ぼくの村」
「わからない。 どうしてぼくはここにいるのか、どこからきたのか・・・
どうしてぼくがここの人たちと様子がちがっているのか
知ろうとすると、なんだかとても 苦しくなるんだ。
だから 考えないようにしている。
あ、ほら、きみ、とってもきれいになったよ。」
ダンテの銀色の髪の艶を 少年はすこし まぶしげに見た。



「ネロ! 風呂はまだおわらないのかえ?」
きつね顔のあの女房の声がした。
「はい、おわりました、奥様」
「あれ、おまえ、可愛い顔してたんだねぇ。あんまり薄汚かったから わからなかったよ」
女房はダンテを上から下までみまわして、そういった。
「将来が楽しみだよ・・・」



 前のページ  次のページ   バージル篇トップ   小説館トップ   総合トップ