「蒼い月」バージル篇

§13 思わせぶりな口調 音楽を流します


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隠し部屋の一角にしつらえてある陶器の風呂に
バージルはつかっていた。
うしろから老人に抱え込まれていた。

いま 自分はただの人形なのだ、
そう思っていた。

「うちを建てて欲しいといったな。
村でなにかあったのだな。
なぜまわりくどいことをする。
きさまもまだ幼い。
弟とふたりでは なにもできまい。
ここで暮らしたらよいではないか。
きさまならば、 十分すぎるほどに可愛がってやろうものを」
そういって また肩から首筋に口を寄せてきた。

もうそれを避ける気にもならなかった。
「ぼくは 村にとどまっていなきゃいけないんだ。
帰ってくる人がいるんだ。」
「いつになるやも わからん。
帰ってこぬやも しれぬ。」
「きさまになにがわかる!
兄貴は あのひとは きっと帰ってくる」
「何も知らぬのは、きさま自身。
しかし、全てを理解したとき、
それが きさまの おわりになるのかもしれぬな・・・くははは・・」

「あなたは 何を知っているというのだ。
ぼくたちの何かを 知っているというのか」
「知りたいか。
まあ そう あせるな。
時間をかけ
じっくり
教えてやろうではないか。」



そういうと老人は 老人のそれとは思えないほどの力を持って
片手で少年をなげとばした。
そして彼の上にのしかかると 耳元に囁いた
「おまえは わたしにかなわぬ。
そのことを その体と、こころで十分に知るがよい」




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