「蒼い月」バージル篇

§16 同じ血の証 音楽を流します


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翌日

ネロに案内されて、兄弟は 生活に必要なものを買いに回った。
老人は大店の主人に相応しい段取りのよさで、 兄弟の新しい家の手配を進めた。
「ネロ、おまえはわしの代わりに行って見届けてくるがいい。
様子の始終を報告せよ」
「でも・・・」
「里の外の空気にふれるのも また よかろう」

一瞬戸惑った様子をみせたネロだったが、主のやさしげな言葉に安どし
むしろこころから嬉しいといった面持で
「あ、ありがとうございます」と、礼を述べたのだった。

「バージル、おまえも 困ったことがあればいつでもここへ帰ってくるがよい」
老人はあえて「帰る」という言葉を選び意味を含めた。
「俺の帰る場所は山のあの場所だけだ」
「まあ、よかろう。しかしおまえがどうあがこうと、今のおまえたちに必要なのは このわしだ」
「余計なお世話だ!今回の件は礼なんか言わないからな!け・・・・契約なんだから。
これっきりの 契約だ!」
言い捨てるとバージルは先だって踵を返した。
「あ、にいちゃん、まって! ネロ君、いこいこ。」
ダンテもネロの手を取り、引っ張るようにして後に続いた。

老人は目を細めて3人を見送る。
「実は熟してからもぎ取ればよい。さらなる力をわしは得る。
王たるもの・・・・それはきさまらではなく、このわしだ」

****

村への山道はやさしいものではなく、道具を携えた職人達は難儀していた。
少年たちは代わりに道具を預かり、それでも跳ねるように進んでいく。
ネロまでも 勝手知ったる道のように
軽々と歩を進めていた。

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焼け落ちた村。
弟が兄の裾にしがみついた。


「ここに建てて欲しい」
バージルが希望したのは 滝の見える位置だった。
(ここにいれば、あのひとをすぐに迎えられる・・・)
ネロは二、三歩滝に近寄り
何かを感じるのか、しばらくそれを凝視していた。

ネロと兄弟は3人で革を貼った仮小屋を建てた。
「ほんとにこれでいいんですか?」
「うん、寒さがしのげれば、それで。ありがとう、ネロ君。」

兄弟はネロを山のあちこちへ案内した。
切り株のある 空き地で
「ネロ君、剣使える?」
「剣?使えないですよ。侍じゃありませんから。
バージルさんは何か稽古でも?」
「うん、四兄ぃにおしえてもらったんだ。内緒だけどね」
「四・・・」
「知ってる?」
ネロに閃光のように記憶の風景がもどってくる。
彼の顔に苦悶の表情が浮かぶ。
「ネロ君、なにか思いつくことがあるの?なにか 思い出したの?」
いってよ。思い出してよ。ぼくたちのために! 君のために!」
「ごめんなさい・・・」
ただでさえ 辛い思いをしてきたネロを 問い詰めるわけにはいかない。
「・・・いいんだ。ぼくこそ あやまんなきゃ。ごめん。
でも、ゆっくりでいい、いつかきっと 本当の君を取り戻して。
ぼくも、君のことが知りたい」
そしてバージルは気を取り直すようにいった。
「おっしゃぁ、ちゃんばらはじめるぞ!」
3人はそれぞれに あたりの適当な棒を持ち、構えた。

バージルが剣を振る。
ダンテは飛び上がる。
そして ネロは バージルの剣をきれいに 受け止めて見せた。
もう「どうして?やっぱり 剣士なの」  そう 聞くのはやめた。
あえて彼の口にそれを語らせずとも、
彼が自分達の仲間であることは 十分に明らかなのだから。

家の枠はおおかたできていた。
あとは壁や 屋根をしあげることだ。
職人たちは幕をはり一晩をすごすことになっていた。
ネロは主のいいつけで かれらの世話にあたった。

急ごしらえの仮小屋も、兄弟ふたり寄り添えば暖かかった。
「あしたは あたらしいおうちだね、にいちゃん
にいちゃん・・・ぼくね、うそついた。
にいちゃんのつくるおかいさん、おいしいよ。
里のお姉ちゃんのより、・・・おいしぃ・・」
「うん。 四の字ももうすぐ帰ってくるから。待ってようね」

それは コトリと眠りにおちた弟に返したのではなく
ただただ 自分に言い聞かせたのだった。





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