「蒼い月」バージル篇

§17 罠 音楽を流します


******


ダンテは不思議でならなかった
初めて自分が里へ降りて以来、二、三度 里から迎えがきて 兄はでかけていった。
その都度 生活に必要なものをいろいろ 持ち帰ってくるのだが、
以前のように 交換の品を用意していたわけではない。
里の土産を自分が喜んでいれば、兄もそれが嬉しそうだ。
でも ダンテは知っていた。
里から帰った日は 布団の中で声を殺して 兄が泣いていた。
自分には笑うこと、元気でいること、ひとりでもがんばれることしか できないことが
悔しかった。

青色のオオイヌフグリが咲き始めたころ、
また、里のむかえがやってきた。
「ダン坊、いってくるよ。お土産、もって帰るからね」
「にいちゃん、里で、これ、売れるかな?」
ダンテが見せたのは、手作りのコマだった。
不恰好なコマで回りそうにもないが、木を彫り出したもので、
赤色と青色に塗り分けられていた。
「素敵なコマだ。じゃあ・・・今日はこれを売ろう!高く売れるよぉ。」
「うん! そしたら、にいちゃん、泣かなくてもすむかな」
「・・・・」
「・・・・ぼくは、もうなにもいらないから!
にいちゃん、里へ行かないで!!」
ダンテが堰をきったように泣き出した。



「だ・・・だめだよ。ぼくには仕事があるんだからね。
里で一生懸命お仕事して、それで、いろいろとお土産を持って帰るんだから。
だだこねちゃ だめだ。
いいかい、ちゃんとお留守番しとくんだよ。」
いつになく泣き叫ぶ弟をおいて、 彼は 迎えの者に従った。

ダンテは後を追った。

行きついたのはあの老人の店。

「いっちゃダメ」
ダンテがそう声をかけようとしたとき
つっと肩をつかんで侍風の男が囁きかけた。
「兄キを痛い目にあわせたくなければ、じっとしていろ」

そして急に大声で
「へぇ〜こんなところに魔物のちびだ。
斬っても斬っても死なないという 噂
確かめさせてもらおう」

ダンテは叫ぶまもなく
小さなからだを切り裂かれた。
一度、二度・・・
あたりが一瞬 しんと静まり返る。女のあげた悲鳴でいっきに騒然となる。
振り向いたバージルは声にならない声をあげる。
まるでそこだけ時間がねっとりと遅くなっているように感じる。

(やめろ・・・・・)

次の瞬間、バージルはすでに男の目の前にいた
当身を一度、奪った相手の刀で、男をまっぷたつに切って落とした。

「ダン坊、ダン坊」
バージルは血を噴き出している傷口を必死でなでていた。
「にいちゃん・・・いっちゃ、ダメ」
「うん、うん、わかった。もういかないよ」
「ぼく、大丈夫、ちょっとまってて、舐めたら 治るから」

傷は治る。
でもこの子にここまで辛い思いをさせていたことを 
猛烈に後悔した。

「人殺しぃ!」

あたかもそこらで待っていたかのような役人達に
ふたりは囲まれた





 前のページ  次のページ   バージル篇トップ   小説館トップ   総合トップ