「蒼い月」バージル篇

§18 無道 音楽を流します


******


「銀色の髪の魔物がひとを殺した!」

あたりは騒然としている。

しばらくすると 血まみれになっていた 腕の中の子が起き上がり
ふたり にっこり笑うと、しっかり抱き合っている。

人々は驚愕した。

「化け物」
「化け物を捕らえろ」



兄弟は人間の大人に引き離された。
「まって、あの人間が弟を」
「きさまの 弟はぴんぴんしている」

「にいちゃん、にいちゃん」
「ダン坊!」

バージルは素早い動きで人間の手から逃れると
弟に走りよった。
傍らに落ちている刀を取ると
「よるな! 近づいたら、斬る」

人垣はざっと 後ずさりした。

そのとき
「まちなさい。きみたちはそうやって 咎人となり、逃げ回る生活を選ぶのかね」
そういって、老人が出てきた。

彼は役人の長と見られる人物に
「この者は多少 わたくしめとかかわりがございましてな。
斬られし男は 日頃 辻斬りの疑いもあるとか。
この際 ひとつ厄介払いができたと思し召し
少年を 預からせていただけませぬか。
かならず 我が手におさめ置き 監視いたしますゆえ。」

それは たいそうへりくだったものいいだったが、
返事は ひとつしかないのだと 決め付ける強いものだった。
しかしそれはまた はじめから きめられた台本でもあったのだ。

「よかろう、この少年 貴殿に預ける。
捉えてはなさぬことだな・・」
そういって にやりと笑った。

**

兄弟は座敷で老人と向かい合っていた。
「このさき、兄はこの屋敷にて過ごすべし。」
「そんな! 弟はどうなるんですか」
「弟は山へ帰れ。
世話役をつけてやる。
ネロ、きなさい」
「はい、だんなさま」
「いやだ!もうぼくは ここへ 来ない。
僕が間違っていた。
あなたの世話にはならない。
お願いだ、帰して。」
「ここから出れば、きさまは咎人として召し捕られ
死罪は免れぬ。よくて 永久に島流し。
永遠に弟と別れてもよいのかね。
ここにおれば、 日を決めて会わせてもやろう。
きさまに いま 選択肢は ない!」

「ぼくは、ここにいちゃ だめ?
お手伝いします。
おそうじ します。
お風呂も焚きます。
賢くしてるから、おねがい、にいちゃんと いさせて」
「ダンちゃん、ぼくが そばにいてあげる。」
「ネロ君、おじいさんに お願いして。
ぼくもここにおいてくださいって」
「だんなさまは まちがったことは おっしゃらない。
いま にいさんは ここにいたほうがいいんだ。
君がいると にいさんの じゃまになる。
にいさんはここで りっぱな使徒になるんだ。」
「シト?」
「では だんな様、わたくしは しばらく 山へ。」
「食料など、必要なものは こちらから 届けさせる」
「わかりました。ありがとうございます」

**

バージルはひとり 隠し部屋に転がされていた
もう 涙も出なかった。
「もっと強ければ・・・
もっと 力があれば・・・
魂までは奪われない。
こころは 売らない・・」

そのとき ガチャリと 音がして
老人が入ってきた。

老人の名は無道。
人の皮をかぶった 悪魔だった。






 前のページ  次のページ   バージル篇トップ   小説館トップ   総合トップ