「蒼い月」バージル篇

§19 ネロ 音楽を流します


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「触るな・・・」

「何か 言ったかね・・・
さえずることしかできぬ かごの小鳥よ」

無道がさらに近寄ろうとしたとき

「寄るなっ」

怒りを押し込めた、低く、絶対的な口調

無道は 気圧され たじろいだ。

ゆらり バージルは青白いオーラにつつまれ 立ち上がった。
「俺は還る。 俺のいるべき処へ。
貴様は貴様の世界へ 消えろ!」
「この世界がどういうものかも知らず、分かったようなことを言うな。
己の欲するところに忠実に生きる者たちの世界。
純粋で愛すべき世界ではないか。」
「欲はすべてではない。
人の欲のこころを弄び、
果ては それを自滅に追い込む者よ。
世界は貴様に屈しない!!」

彼を包んでいたオーラが爆発的に輝き
そして 無数の剣の形を為した

無道は避ける間もなく 蒼き剣に貫かれ 倒れた。
そして それを見届けると
バージルのすがたは ふっと 掻き消えた。

***

滝の見えるうちでは ダンテとネロが食卓をはさんでいた。
めそめそしている小さな子の横に、 ネロは座りなおした。
「あの方は世界を自由にしてくれる素晴らしい方だよ。
にいさんも きっと幸せに暮らせる。
君がもう少し大きくなれば、またふたりで一緒に暮らせるようになるよ」
「ネロ君は、ネロ君は、ほんとうに あのおうちで 楽しかったの?
ぼくは ぼくは にいちゃんと一緒にいたい・・・」

そのとき うちの明り取りの窓から まぶしいほどの光が入ってきた。
「なにっ!?」
ダンテとネロは うちを飛び出した。

そこには バージルが立っていた。

「なぜ、なぜ 君はここに戻ってこられたんだ!」
ネロが叫んだ
「ネロ・・・君は俺たちの仲間だろう。
それなのに あいつに こころも魂も売り渡し、
完全に支配されたというのか」
「あの方は どうした」
「俺が  倒した」
「倒した・・・?
ふっ・・・そんなはずはない。
僕がここに、こうして生きている。
あの方は 生きているのさ。
僕は 君達があの方の邪魔をするのを 防がなければならない。
君たちが その力を出せぬよう、 監視すること、
それが僕に与えられた役目。
バージル、 君がコレほど早く動き始めるとは思わなかった。
いずれ あの方の力の一翼を担い あの方の望む世界を作るものとして
働いてもらうつもりだったが
こうなれば 単なる邪魔者にすぎん。
まだ未熟なようだが 潰すには好都合。

兄弟ともども 消えてもらおう」

ネロの手元が光り、形どられ、剣となって握られていた







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