「蒼い月」バージル篇

§21 繭の中の4年 音楽を流します


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光の壁に守られた3人のくらしがはじまった。

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無道の術から逃れたネロは 黒く染めていた髪も銀色にもどり、
断片的ではあったが、仲間の心をとりもどしつつあった。
どうやらネロは二人が思っていた以上に年上のようで、
若かりし頃の先代の長、つまり 兄弟の父に剣の指南を受けたと知った時には
ふたりとも目を丸くした。
時おり四の話が出れば「泣き虫の四」と呼び、笑いを誘った。
ただ、その心に負った深い傷のせいなのか
身体は 14,5の少年のままだった。
さらにあえて思い出したくないことがあるのか
より突っ込んだ話をしようとすると混乱しこころを閉ざしてしまう。
しばらくすれば、申し訳なさそうに笑顔をみせてくるのだが、
兄弟は暗黙のうちに ネロを追い詰めることはすまい、と心得たのだった。
一度、ネロのほうから「ニイという人を知らないか」と尋ねてきた。
ふたりが「知らない」とこたえると、「そうか」と小さく笑ったが
それがどうしようもなくさびしそうに見えたものだから、ふたりはしゅんとしてしまった。
どうしてよいのかわからないダンテが
「し・・知らなくてごめんね」と謝罪ともなぐさめともつかない言葉をかける始末。
このことがあってから、ネロはふたりへの想いをあらたにした。
自分がこの地に戻ってきた意味、果たすべき使命について考える。
過去を悔いてなどいられない。今この時を大切に生きていこうと決意したのだった。

「きみたちが持っているべきものがある」
そういって ネロはふたりを滝の裏の空間の入り口に案内した。

そこには小さな祠があった。

いつも遊ぶその場所に、そんなものがあったとは 全く気づいていなかった。
その祠のちいさなボタンをおすと横の岩壁が開いた。中には二振りの剣が収められていた。
細身の刀身をもつ日本刀と
ドクロの装飾を施した大剣

バージルは日本刀をとった。
ダンテは 大剣をとろうとしたが、 重くてもちあげられずに 半べそをかいた。
「これは?」
「きみたちのものだ。 それぞれ持つべきものが自ずと手にする。
だからバージルがその日本刀を、ダンテが大剣をとったのは偶然じゃあない。
本来はもっときみたちが成長してから渡すべきものなのだが・・・
村が滅ぼされてしまったいま、来るべき時に備えていてもいい」
「来るべき時? 無道との決戦?」
「・・ああ。
でも大丈夫。きみたちなら きっと負けない」

ネロのこころのうちには 他の理由があった。
それは教えられてきた運命と現実との「ずれ」だった。
彼らをそれぞれ導き、護るべき役割のものがふたりともいない。
かわりに自分がいる。
さらに
(兄弟がこうして 歳のはなれた兄と弟して存在したこと自体
悪意の操作があったに違いない。
アレがふたたび 動き出す前に
できる限りのことをしておかなければ・・・)

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月日が流れ もう4年近くたとうとしていた。
四は帰ってこない。

ネロは 積極的に兄弟の教育や剣の指導にあたった。
ずいぶんと大きくなったバージルが
小さな「先生」に頭が上がらない様は ほほえましかった。

すでにダンテも大剣をふることを おぼえていた。
ダンテの身体も力も9歳のそれとは思えないものだったが、
心と頭だけはやんちゃな9歳だった。

そして、まもなく ふたりの誕生日がやってくる。
おもしろいことに 兄弟の誕生日は同じだった。
バージル17歳 ダンテ10歳を迎える 夏だった。


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