「蒼い月」バージル篇

§22 四の帰還 音楽を流します


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誕生日を次の日に控えていた。
ダンテの一番のお楽しみは甘い砂糖菓子つくり。
ネロが異国のお菓子をつくって誕生日を「祝う」ということを教えてくれた。
この日はいつもケチケチしている甘い砂糖楓の汁をいっぱいつかえる。
たまごと粉にまぜて石の窯で焼くのだ。

そのとき ゴゴゴゴッと低い地響きがしたとおもうと
滝のほうから パーンと光が差してきた。
一瞬にしてバージルには四年前の「あの日」が戻ってくる。

この日を、この時を どれだけ待ったことか!
バージルが駆けだす。
あわてて追うダンテ。

そしてネロはふたりの後にゆっくり続いていた。
その顔はひきしまっており、やがて 微笑んだ。

滝は目も開けられないほどの光に包まれている。
そこから ゆらっと 人影が浮かんだ。

「・・・四の字」



「待たせたな」

「待たせすぎだよっ」
バージルはすぐに 四にすがりたかった。
しかしその前に
四は うしろの ネロに声を掛けた。

「にいさん」

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「にいさん!?」

ネロが四と親しくしていたのはわかっていたが、兄弟だとは聞いていなかった。
ダンテなど あんぐりとあいた口がふさがらなかった。

四は 少し表情をゆがめ
ネロに歩み寄った。

「ここに 戻ったんだね、・・にいさん」
「ああ、ふたりに 助けられた・・・」
「ごめんよ、俺は助けてあげられなかった・・・」
「いいさ、またこうして 会えたのは 嬉しい奇跡だ。」
「辛い目にあわせた・・」

そういうと 20年近くも離ればなれだったと思われる兄弟は 抱擁した。

「ぼくも、ぼくも、辛かった・・・・」
バージルは半泣きだった。
ふたりに割って入ろうとしたとき

「にいちゃぁん・・。まっててあげて」
ダンテが止めた。
バージルはダンテに平手打ちをくらわせて、走り去った。
わけのわからない仕打ちに驚き戸惑うダンテだったが、
しずかに抱擁するネロと四の様子に そっとその場を後にしたのだった。





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