「蒼い月」バージル篇

§24 あふれる想い 音楽を流します


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あの 空き地で
バージルは膝の間に顔をうずめていた。
四は 黙ってその横に座った。

バージルはその胸にしがみついた。
ためこんでいた思いをぶつけるように。
「ずっと 待ってた。滝のそばのあの場所で。
俺 強くなったよ。
こんどは 負けないから。
がんばったんだよ。
がんばったんだ・・・」
「大きくなったな。
それにほんとに 力強くなった。
あんなに小さかったのに。
いろいろ つらかっただろう?」
ふいに バージルは四を押して顔をあげた。

「ほめて欲しいんじゃない。俺、もう こどもじゃないよ。
四兄ぃを待っていたのは、たださびしかったからじゃない。
甘えたかったからじゃない。
触れたかった。触れて欲しかった。
四兄ぃのことを想うと、体中が熱くなる。
熱くて熱くて、そのまま燃えてしまうような気がした。
いまだって・・・
その指で、その手でその腕で、冷まして欲しい。
俺、・・・兄貴に 愛してほしい
あのときみたいに。
あのときと おなじ 月が出てる。
お願い・・・・・」

少年の背をなでながら、四は最後の理性にすがっていた。
こいつのためならば、命だって捨てる、そう覚悟はできている。
こいつを護りぬく、それが自分に与えられた使命。
けれど そんなものを超えてわいてくるこの愛おしさはなんだ・・・?
憐れみなのか・・・?

四はバージルの額にかかる前髪を少しよけておやゆびの先で額を撫でてやる。
(ちがうな・・・)
ひたむきなまなざしに 戸惑うどころか 熱い感情の昂ぶりを覚える。
四はその額にくちづけた。
バージルは目を閉じる。 自分を抱きしめる腕に 少し力が入ったように感じた。

けれど、四はそれ以上なにもしない。
バージルが目を上げると、四の頬にひとすじ涙が流れるのを見た。
「・・どうしたの?」と問いかけてみるが、四はさらに強く抱きしめるばかりで答えない。

四はふたたびの永い別れの時が迫っていることを知っていた。

「四兄ぃ?」
もういちど声をかけたとき、ふいにその口をふさがれる。
強く、激しい口づけだった。
まるでどの一瞬も惜しむかのように、

そしてバージルは 四のちいさなささやきを聴く。
「まっている。次は離さない」

なぞかけのような言葉に不安をおぼえ 四を見つめる。
四はこれ以上ないほどのやさしいほほえみを返した。
大きな手でバージルのあたまをくしゃっとなでると
「いまは、帰ろう。・・・ほら 、抱っこしてやる!」
そういってかるがるとバージルを抱き上げた。
「や、やめろ、おい、降ろせよ」
「やだね」
「ばか兄ぃ!」
「はいはい」

月が天空に高く輝き、ふたりの道を白く照らしていた。








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